北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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北極星

道北各界で活躍する皆さんによるエッセーコーナーです。 2020年3月までの記事はこちら


大槻みどり(富良野・カフェ経営)*おいしいコーヒーを考える

 カフェを経営してはいるが実はそれほどコーヒーに詳しいわけではない。それでもコーヒーは大好きで、目覚めの一杯から始まり、ほっと一息つく時や、さあやるか、とスイッチを入れる時の良き相棒だ。

 お客さまに喜んでいただくため「おいしいコーヒーとは何だろう?」と考えることがある。豆の品質や淹(い)れ方の技術は重要だが、おいしかった一杯を記憶から探してみると、どんな豆だったかというよりも、どんな状況だったか、誰と飲んだかばかりが思い出される。「利きコーヒー」ができるほどの専門家でもない限り、登山をして絶景の山頂で飲むコーヒーは、インスタントでも誰もがおいしいと感じるだろう。

 一方、カフェではお客さまの状況や飲む相手を操作できるわけではない。こだわりの豆を丁寧に淹れるのはもちろん、器やインテリア、BGMで心地よい空間を提供することが、おいしい一杯のために私ができることだと考えている。

 昨秋、旭川医大に入院した。手術の翌日、歩行訓練が始まったが、トイレまでの4メートルもまともに歩けない。ヨタヨタと歩き続けるうちに、少しずつ距離が伸びていった。最終目標は2階のスターバックス。3日後、階段という難所を乗り越え、たどり着いて飲んだコーヒーは身体にじんわりと染み渡り、間違いなく人生で一番のおいしさだった。

(2023年1月23日掲載)

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


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