北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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北極星

道北各界で活躍する皆さんによるエッセーコーナーです。 2020年3月までの記事はこちら


大槻みどり(富良野・カフェ経営)*中トロのトラウマ

 某大型スーパーで、年末年始のおすしを作るアルバイトをしたことがある。未経験者でも上手に作れるようにシステム化され、ネタの向きやサビ抜きシールを貼る場所まで、全て決められていることを知った。

 私が担当したのは中トロやウニが入った高級なセット。年末だけあって飛ぶように売れた。ちなみに、ちょっと刺し身を食べられるなんて特権は全くない。ネタもシャリも余ったものは全て廃棄。「もったいないけれど、これが大企業なんだね」と、主婦が本業のスタッフさんたちと話した。

 最終日、厨房(ちゅうぼう)に緊急連絡が入った。中トロの在庫が少なくなったので、私が作っているおすしの種類を変えるようにという指示だった。中トロはブロックのものを別室で職人さんがスライスしているのだが、それを置いていた台の脚が突然折れて、中トロが台を滑り落ちてしまったという。ン万円もする巨大な塊。もちろん廃棄である。

 その後、厨房は無言が続いた。誰もがもったいなさで胸が張り裂けそう。「上だけ切って使えないのかしら」「自宅用に売ってもらえないかしら」。もちろん無理である。あれ以来、中トロを見るたびに胸がギュンと痛むようになった。今でも、悪い社員さんがこっそりと家に持ち帰って、おいしく食べてくれていたらいいなと願っている。

 

(2022年1月17日掲載)

 

 

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


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