北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

旭山動物園わくわく日記

全国的な人気を呼ぶ旭川市旭山動物園の話題やイベント、裏話などを紹介します。 旭山動物園ガイドとしてもお楽しみいただけます。 2020年3月までの記事はこちら


ありがとう チンパンジーのキーボ*長年リーダー 一時代を築く

 旭山動物園は、ヒトに一番近い動物・チンパンジー11頭を、野生本来の複数の雄雌という構成(複雄複雌)で、二つの群れとして飼育しています。群れの雄は順位が重要で、大人になると闘争につながることもあります。雌は8~11歳くらいで別の群れに移りますが、雄は毛を逆立てて大きな声を出したり壁などをたたいたり、物を投げつけたりと、強さをアピールする行動「ディスプレイ」を行い順位が決まります。

 長年にわたり、群れの最上位のリーダーであるアルファ(α)雄だったキーボが昨年末、老衰のため53歳の生涯を終えました。当園で初めての雄チンパンジーとして1975年2月に来園。当時は動物を調教して芸を見せることが各園で盛んに行われ、開園時からいた雌のゴクウとともに園内を散歩したり、三輪車や竹馬などを披露したりして人気を博していました。

 ゴクウに比べると控えめなキーボでしたが、このペアで81年にリノ(現・神戸市立王子動物園)を出産。その後も10頭の子をもうけ、命を確実につないできました。そうした中、キーボに2006年、転機が訪れます。動物本来の行動や営みを見せる行動展示施設ちんぱんじー館のオープンです。チンパンジーの移動は大変でしたが、無事に引っ越せました。しかしキーボは新しい環境に加え、息子シンバとの闘争で負けてしまい、群れを二つに分けることになりました。

 そのことでキーボは精神的に不安定になり、覇気を失って元気のない状態になりました。その後立ち直り、再びアルファ雄として群れをまとめてくれました。私がチンパンジーを担当した頃には、キーボは50歳を超え、体格も小さくなり筋力も衰え、動きも機敏さに欠け、ついにはアルファ雄の座を息子のキャロ(13)に譲るようになりました。

 飼育下でのチンパンジーの寿命は50年くらいなので衰えは隠せません。19年に孫のニナ(8)とも合流し、3世代で幸せな余生を元気に過ごしていました。しかし子どもたちは活動的で、キーボはこの1年で傷も増えてきました。その姿を見るとつらいものでしたが、最期は「本来のチンパンジーの群れ社会」をありのままに見せてくれた立派なものでした。旭山の歴史とともに歩んできたキーボの死は、一時代の節目と言えるでしょう。

 今後、二つの群れの構成も考えながら新たな歴史が始まります。47年間、本当にありがとうキーボ。これからも遠くから見守っていてくださいね。(ちんぱんじー館・タンチョウ舎担当 高井正彦)

 

【写真説明】昨年末、老衰のため生涯を終えたチンパンジーのキーボ
(2022年1月17日掲載)

 

 

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


GO TOP