北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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北極星

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稲荷桂司(旭川・公務員)*ボロボロの伝記

 私は小学生のころ、偉人の伝記を読むことが大好きで、親に同じシリーズの伝記を毎月1冊買ってもらっていた。私の集めていたシリーズは一般には知られていないマイナーな人物も多く収められていて、おかげで知らないうちに幅広い分野の人物について知ることができ、私が歴史好きに育つきっかけになった。

 私の弟が成長してやはり伝記を読むようになると、NHKドラマ「らんまん」主人公のモデル、牧野富太郎の巻をよく持っていった。弟は虫や植物が大好きで、庭や野原でゴソゴソとそれらの観察をし、時にはスケッチなどもして、兄弟でこうも嗜好(しこう)が違うものかと子どもながらに思ったものだった。

 この賢弟は、大学でも生物学を専攻し、学位をとった後は非常勤ながら博物館や研究所に勤め、大好きな自然の中で仕事をして、のびのびと暮らしていたが、昨年の秋、急逝した。数年前から難病を患っているとは聞いていたが、自分についてはとんと無口なこともあり、この愚兄に大した深刻さを覚えさせなかった。

 むかし読んだ伝記の本は、捨てずにとってあったので、実家の物置で時々見ることがあったが、ボロボロの牧野富太郎の巻が特に印象的だった。いま、少しずつ弟の蔵書の整理をしているが、次の帰省ではこのボロボロの本を探してみようと思う。
 
(2023年10月2日掲載)

 

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