北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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北極星

道北各界で活躍する皆さんによるエッセーコーナーです。 2020年3月までの記事はこちら


稲荷桂司(旭川・公務員)*本を開ければ

 このところ本棚が窮屈になってきたので本の整理を続けている。そんな中、『金石大字典』という中国の古い漢字字典が古本で安かったので購入した。実は学生時代に同じものを買っていたが上下巻でかさばっていた。今回のものは日本での復刻版で、1冊にまとまっているので古い方は処分できると思ったのだが、見ると復刻版は、元の本にあった著者の序文がバッサリ省かれていた。確かに字を調べるには必要ない部分であり、本の厚みを減らすことにはなる。しかし大きな字典を編集した人の志と苦労を思うと、何か大事なものを切り捨ててしまうような気持ちになった。結局古い方も処分できず、かえって本棚を圧迫する結果となった。

 もう一つ当てが外れたことがある。『古文字類編』というやはり古い漢字を集めた字典を持っていたが、改訂版が出ていたので今度こそ旧版と取り換えるつもりで購入した。ところが改訂版は、ほとんど別の本と言っていい内容で、全体の字数は多くなっても旧版にあった字が無くなっていたり、元は同じでも後の時代に別の字に分かれた場合、旧版では「古くは同字」と注記を入れてくれていたのが無くなったりするなど、使い勝手が悪くなっていた。結局これも旧版は処分できず、いよいよ本棚を窮屈にすることとなった。

 教訓。新しいものが常にいいとは限らず、本は開けてみなければ真価は分からない。

 

(2022年1月10日掲載)

 

 

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


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