北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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北極星

道北各界で活躍する皆さんによるエッセーコーナーです。 2020年3月までの記事はこちら


漢(はた)幸雄(士別・劇場館長)*ひとり車中泊

 近年、キャンプやキャンピングカーでの旅行が流行らしい。夏が始まるころ、軽バンに夜具と着替えを載せてふらりと1人で旅に出る。どこへ行くか何をするかは気分次第。気になっていた温泉につかり、目についた食材を地元のスーパーで買う。気になる看板を見つければちょっと寄ってみる。見知らぬ土地の何かに触れることは旅の醍醐味(だいごみ)。

 宿泊は道の駅。同じように止まっている車両の多いのに驚く。豪華なキャンピングカーばかりではない。乗用車での車中泊も珍しくない。たまたま隣り合ったどこかの誰かとも、とりとめのない会話が生まれる。

 エンジンを止めれば窓から入ってくる風が爽やかで、欠かせぬ酒を飲みながらの夕食を終えるとするべきことは何もない。これで携帯も持たなければ社会から途絶されたようなものか。

 近くを散歩し、ぼんやりと風景を眺め、手持ちの本を開き、小さな音で音楽を聴く。何もしなくていいという時間がこれほど退屈で、ありがたいものだとは知らなかった。

 北海道の初夏のドライブは快適そのものだ。雨にたたられてもかまわない。どうせ先を急ぐ旅でもなし。

 そんな旅も1週間になると開放感が日常となって、帰宅がおっくうになる。もしかすると職場の机は撤去されているかもしれない。まぁ、それもいいさ。
 
(2023年5月8日掲載)
 

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


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