北極星
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谷紀美子(名寄)*届く言葉
図書館非常勤職員を退職して4カ月ほど、時に散歩をし、自転車で走り回り、気の済むまで手仕事をし、気ままに暮らしていたが、この夏の猛暑で全てのやる気を失った。ぼーっと過ごしている間に五輪は終わり、コロナ感染は爆発傾向だ。
ぼーっと過ごしつつも新聞はきちんと読む。在職中は、出勤前の限られた時間にざっと目を通して興味のある記事だけ読んでいた。今は「各自核論」などの論説や各種コラムなどもじっくり読む。あまり興味のない分野でもあえて読む。字面を目で追うだけではなくちゃんと脳内で音読する感じだ。これまで知らずにいたことはたくさんあるし、書き手の思いや意図が伝わり、「ああ、ちゃんと読んでよかった」とたびたび思う。たとえ次の日にはすっかり忘れていようとも。
思想家の内田樹が「街場の文体論」の中で「『届く言葉』には発信者の『届かせたい』という切迫がある。できるだけ多くの人に、できるだけ正確に、自分が言いたいこのことを伝えたい、その必死さが言葉を駆動する。思いがけない射程まで言葉を届かせる」と言っている。
そうか! できるだけごまかしたい、真実は覆い隠したい、何も説明したくない、誰かが作った文章を読むだけ(しかも読みとばしたりする)なんて人の言葉など届くわけがないのだ。
(2021年8月23日掲載)
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