北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

北極星

道北各界で活躍する皆さんによるエッセーコーナーです。 2020年3月までの記事はこちら


大槻みどり(富良野・カフェ経営)*見慣れたニッポンの魅力

 行動制限がなくなって、外国からの観光客が戻ってきた。

 5月末にシンガポールからやって来たご夫妻に、一番印象に残った風景を尋ねたところ「田植え」と答えた。農地が国土の1%しかないシンガポールでは、田園風景が珍しいのだろうが、定規で線を引いたかのように真っすぐに植えられていく様子は「アメイジング」だそうだ。きちょうめんな性格がまさに「ジャパニーズ」だと、興奮しながらたくさんの写真を見せてくれた。私には見慣れた景色だが、彼らのおかげでその美しさを再認識できた。

 スーパーのお菓子売り場でのこと。欧米の青年5人組が、黒いかりんとうを見て「これは何だろう」と議論していた。袋は日本語表記のみ。ジャンケンが始まり、負けた青年がレジへ。その後、仲間たちが見守る中、その青年が一つ手に取り恐る恐る口に入れた。ん? おいしい! 驚きとうれしさの混じった表情でどんどん食べる彼を見て、仲間たちも次々と口にする。

 本当だ! すごくおいしい! 彼らは再び売り場に戻り、たくさんのかりんとうを持ってレジに並んだ。私もなんだか食べたくなり、カゴへ入れた。私には見慣れたお菓子だが、彼らのおかげでそのおいしさを再認識できた。彼らを感動させる源は、私たちの日常にあるのかもしれない。

(2023年7月17日掲載)

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


GO TOP