北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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北極星

道北各界で活躍する皆さんによるエッセーコーナーです。 2020年3月までの記事はこちら


村山修(枝幸・ダイニングバー店主)*春近し、か?

 流氷が去りオホーツクの海が開けた。「越冬タラバ漁」や「毛ガニかご漁」が始まり、長かった冬靴生活を終える季節になった。母の自宅介護が始まって1年少し。初めは手探り状態だったので、勢いで整理に取りかかったものの、いまだに放置されている物が寝室にあったりする。

 名もなき家事が休みなく続くというのは、誰もが日常生活で分かっていると思いたいけれど、どうも違うということに気づいた。

 他の家族がやりたいことをやり、「友達のところに行ってくるね」と母に言い、こちらの用事を増やしていくのには、出かけられずにいる側の心が折れてしまうという想像力がないのかもしれないと、余計なことを思ったりする。

 一昨年、昨年と史上最高の漁獲高を記録した絶好調の漁業を家業としているけれど、まだまだ貧しかった時代を支えた母には一切その恩恵はない。でも母は「浜に行きたいね」と、リハビリの目標にしている。

 精神的にも体力的、経済的にも、介護は、今までの生活をガラリと変えるのは、見聞きしていて分かっていたけど、当事者になって初めて気づくことも多い。ただでさえ人と接する機会が減っていたなかで、友人たちとゆっくり話す時間がなくなるということが、こんなにもダメージが大きいのかと感じる。

 それでも、「もうすぐ桜も咲く公園へ散歩に行けるね」と母は春を楽しみにしてくれている。

(2023年3月20日掲載)
 

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


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