北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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北極星

道北各界で活躍する皆さんによるエッセーコーナーです。 2020年3月までの記事はこちら


大槻みどり(富良野・カフェ経営)*冷や麦

 昼食時に友人親子が所用で立ち寄った。玄関に出ると、食事中だと気づいた小学生の娘さんが「今日のお昼ごはんはなあに?」と聞いてきた。堂々と言えるオシャレな献立ならよかったのだが、暑いのと手抜きしたいのとで冷や麦。やや言い訳ぎみにそう伝えると「いいなあ冷や麦! うちも冷や麦だったらいいのに」

 私も子供の頃は冷や麦が大好きだった。水を張ったガラスの器に氷とキュウリと缶詰のミカンが浮かべられ、貴重なピンクの麺は私に、グリーンの麺は兄の器に入っていた。そうしないとケンカになるほどの一大事。毎年、決まって冷や麦を送ってくれる叔母がいたので、夏休みは冷や麦の日が増えてうれしかった。

 ある日、その叔母から宅配便が届いた。送り主の名前を見た私は「冷や麦が届いたよー」と大声で家族に伝えた。母は鍋にお湯を沸かし、つゆや薬味を用意し始めた。私も張り切ってお手伝いしミカンの缶詰を開けた。さあゆでようと包装紙を破いたら、中から現れたのはなぜかカステラ。

 家族全員の目が点になった様子を思い出し、ニヤニヤしながら昼食の冷や麦の続きを食べた。もうミカンもピンクの麺も入っていないけれど、なんだかとてもおいしく感じた。ちなみに私の強い要求により、叔母からの品は翌年からまた冷や麦に戻っている。

(2021年7月5日掲載)

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


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