北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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北極星

道北各界で活躍する皆さんによるエッセーコーナーです。 2020年3月までの記事はこちら


嶋崎暁啓(豊富・NPO職員)*ベンチに座って

 サロベツ湿原センターの木道にお気に入りのベンチがある。ちょうどコース全体の真ん中あたり。たたみ1畳くらいの小さなデッキに、素朴なベンチがちょこんと二つ並んでいる。ずっと木道を歩いてから座ると目線が下がり、湿原の世界がより一層近づく。

 ベンチから眺める景色はいつも違う。空の色、雲の形、草花の様子。豊かな湿原を支えるミズゴケも季節によってまるで違う。春は一年で最もみずみずしい黄緑色。夏は艶やかでしっとりと落ち着いた緑色。秋になると少し茶色に変わり、どことなくはかなさを感じるたたずまいとなる…。

 自然の世界では同じように見えているものも、絶えず変化している。そのことを感じ取れるようになれば、いつ訪れても、その時にしかない風景との出合いや自然の面白さを楽しめるのではないだろうか。

 雪解けのベンチに座ると、長い冬が終わり、雪の下から生き物たちが一斉に目覚める姿に胸が躍る。初夏のベンチは、目にも鮮やかな黄緑色の湿原に、次々と美しい花が咲き、全力でさえずる小鳥の声に包まれる。そして、今。晩秋のベンチは、黄金色の湿原に白い雪が降り始め、一気に冬へと向かうピリッとした空気が感じられる。

 人それぞれのお気に入りの場所。何度も訪れて、探してみてはいかがだろう。
(2020年11月16日掲載)

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


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