北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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北極星

道北各界で活躍する皆さんによるエッセーコーナーです。 2020年3月までの記事はこちら


稲荷桂司(旭川・公務員)*心のびやかに

 新型コロナウイルス感染拡大で緊急事態宣言が発令されていた最中、過去のパンデミック(世界的大流行)が社会に与えた影響を紹介する報道が目についた。
 例えばペストの大流行で都会から避難した人々を描いた物語集「デカメロン」はルネサンス文学のさきがけとなった。ニュートンはペストによる大学の休校で帰郷した時期、自由な思索の中で重要な発見をした。
 一方、あまり話題にならなかったと思うが、日本人も大きく影響を受けた書物で、過去の感染症流行がもとになったものがある。
 風邪薬の代名詞にもなっている漢方薬「葛根湯」。この薬の処方が載っている医学の古典「傷寒論」は、「三国志」の舞台になった中国後漢の末期にできた。著者の張仲景は、動乱の中で大流行した疫病により、多くの一族が犠牲となったことから医学を研究した。
 日本で言えば女王卑弥呼がいたとされる時代よりさらに前で、そのころの本が今も漢方の古典とされていることに驚く。
 流行病という視点で歴史を見ると、洋の東西を問わず人間が何度も危機を乗り越え、そのたびに新たな時代を作ってきたとわかる。コロナ以後の「新しい生活様式」は人間の活動を、少なくとも身体的には制限する方向にはたらく。しかしだからこそ、心はのびのびと活動させたいと思う。

(2020年7月6日掲載)

 

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