北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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北極星

道北各界で活躍する皆さんによるエッセーコーナーです。 2020年3月までの記事はこちら


風間千鶴子(旭川道新エッセー教室受講生)*音の正体

 補聴器を使うようになってひと月。耳栓でも入っているかのようでまだ自分の一部になっていない。

 聴力が落ちていると実感したのは2年ほど前、是枝裕和監督の映画「怪物」を見た時だった。セリフの3分の1は聞き取れなかった。耳鼻科で検査すると、補聴器を付ける目安の40デシベル少し手前だった。

 「じゃ、まだいいか」とやり過ごしていたが、テレビを見ていても音声より字幕に頼り、音は聞こえていても言葉として聞き取れていないと気づくことが増えた。高価だからなんて言っていられない。聴力の衰えは脳の衰えにつながると言い聞かせ、やっと決心した。

 コロナが広がって以来、日記帳に誰と会ったか、どこへ行ったかを詳しく書くのが習慣になり、体温もほぼ毎日測っている。

 いつものように体温計を脇に挟んでいるとチチチチという小さな音がした。あたりを見回すが何の音か分からない。次の日もまた音がする。ひょっとして?

 この体温計は3、4年前の購入当時から測定終了音が鳴らなかった。買った店に持っていき苦情を言ったが、お店の人は試した後に「大丈夫、正常ですよ」。

 チチチチの正体は体温計だった。鳴らないのではなく聞こえていなかったのだ。補聴器を付けて初めて出合ったかわいい音。ささやかな感動だった。

(2025年07月28日掲載)

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


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