北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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北極星

道北各界で活躍する皆さんによるエッセーコーナーです。 2020年3月までの記事はこちら


奥野真人(焼尻・ゲストハウス経営)*焼尻めん羊牧場のゆくえ

 宿泊業が生業の私の体感だが、焼尻島を訪れる観光客の大半は「めん羊牧場」を目当てにしている。ところが、島がその期待に応えられているかといえば、必ずしもそうではない。特に5月の連休は「羊が見たかったんですが、放牧されていなくて…」と残念がる声を多く聞く。島民として、いつも返事に悩まされる。

 やむを得ない事情もある。牧場の運営上、5月の連休を目掛けて放牧出来るとは限らないそうだ。しかしパンフレットなどで大々的にPRされている「焼尻めん羊」。これを目当てにする観光客が多いのも必然だろう。特に見直される機会もないこの違和感は、どうにかならないものか。

 もうひとつ、どうにも心苦しいのが、遅々として進まぬ牧場職員の求人だ。昨年の今頃には3人いた職員、現在は1人に減った。増える気配はない。素人目に見ても不健全な状態は明らかだ。島外から移住し、たったひとりで生き物の命を預かる仕事に従事する心労は想像に難くない。町の本気度はいかがなものか。焼尻の看板であり、観光客の期待を背負う焼尻めん羊が、こうも脆弱(ぜいじゃく)な土台の上に成り立つ現状に、やるせない気持ちを実感する。

 島内ではさまざまな部分で人手不足や規模縮小の話が絶えない。島内各所で焼尻の今後を占う局面を迎えている気がしてならない。
 
(2023年5月22日掲載)
 

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


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