北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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旭山動物園わくわく日記

全国的な人気を呼ぶ旭川市旭山動物園の話題やイベント、裏話などを紹介します。 旭山動物園ガイドとしてもお楽しみいただけます。 2020年3月までの記事はこちら


カイコの歴史と生態*人間なしで生きられぬ

 旭山動物園は数百匹のカイコを飼育する。こども牧場の屋内展示場にある縦横1メートルほどの網棚にその一部を展示している。

 カイコが卵からふ化して繭になるまで1カ月。幼虫が4回の脱皮を終えると、口から白い糸を吐き出し、2日間かけて白い繭となる。糸の太さは0・02ミリ、長さは1~2キロ。この糸は生糸として昔から衣服や医療用縫合糸に使われている。

 「旭川とカイコの間にも深いつながりがある」と担当の佐賀真一さん(43)。動物園のある東旭川地区では明治30年代から大正初期、福島県から入植した人々が古里の主産業であった養蚕で生計を立てた。「養蚕民家」(1973年に市指定文化財)も歴史を伝えている。動物園での展示は2021年12月、この家畜化された昆虫の生態などを伝えようと始めた。

 動物園のカイコはカイコガ科の一種。祖先は中国に生息していた野生のガである「クワコ」。より効率的に生糸を取るため約6千年前から人間が飼育し、品種改良してきた。餌として桑の葉を食べるが、足の力が弱く、遅い。ほとんど移動せず、人間が餌を与えないと餓死する。成虫は、羽があっても体が重くて飛ぶことはできない。野生回帰能力を完全に失った唯一の家畜で、人が世話をしないと生きることができない。

 飼育で重要なのは、温度と湿度の管理だ。冬は暖房や加湿器を使って25度以上に暖め、湿度を70%ほどに保つことで、カイコが卵を産みやすい環境を整える。カイコは繭の中でさなぎになり、羽化した後、500個ほどの卵を産む。その時の温度によって、産む卵の性質は異なり、25度以下では人工越冬が必要な「休眠卵」が産まれる。

 厳寒期、動物園で休眠卵が産まれると、冷蔵庫で2カ月保存した後、外に出して2週間ほどでふ化するのを待つ。佐賀さんは「品種改良を重ねる中で、より効率的な生態に変わっていたのかもしれない」と説明。「まだまだ謎がたくさんあるカイコ。展示を見て、歴史や生態について一緒に考えてもらえれば」と話す。
(渡辺愛梨)

 
【写真説明】こども牧場で飼育されているカイコの幼虫。4回の脱皮をへて繭となる(宮永春希撮影)
(2023年5月22日掲載)

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


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