北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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北極星

道北各界で活躍する皆さんによるエッセーコーナーです。 2020年3月までの記事はこちら


森川理加子(士別・羊農家)*朝6時の「吉報」

 しばれた朝は、子供のころに住んでいた家を思い出す。時代は昭和、いまのような高気密高断熱の住宅とは違い、とにかく寒かった。

 目覚めて自分の鼻の冷たさで「今日は1時間遅れかな」なんて期待したものだった。私が子供だった当時は、朝6時に発表される気温がマイナス25度で1時間、マイナス30度で2時間、学校の開始時間が遅れたのだ。冬の楽しみといえばスキーや雪遊びがすぐに思い浮かぶが、朝の最低気温もまた私たち子供のひそかな楽しみだった。あと少しで25度に届かなかった日などは「今日は無駄に寒い!損した気分だ」と友達と文句を言い合ったものである。

 もっとも文句を言えるだけ余裕があるわけで、実際にマイナス30度のときには、目を開けていれば眼球が凍りそうになるし、薄目にしていると目尻にたまった涙が凍る、自分の吐く息の水分で顔の産毛も凍り付くし、息を吸えばヒュッと胸が詰まって会話どころではなかった。あの寒さの中を歩いて学校に向かっていたら、凍傷になっていたに違いない。2時間遅らせて気温が緩むのを待たなければ、通学させられないわけだ。

 家も学校も木造で、窓枠すら木で造られていた寒い校舎だったあのころ、それでも寒さを楽しみにしていたなんて元気な子供だったなと思う。
 
(2023年2月20日掲載)

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


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