北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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北極星

道北各界で活躍する皆さんによるエッセーコーナーです。 2020年3月までの記事はこちら


石黒誠(富良野・写真家)*5分でつくるお弁当

 仕事へ出発しようとしていた朝7時半。ドタバタと台所を通りかかった私に「お弁当いるの?」と妻が聞いた。もう遅刻しそうな時間に弁当の完成待ちで引き留められたくなかったので、「あれば欲しいけど、あと5分で出るよ」と正直に言った。怒りを買ってもおかしくない状況だったが、その日は「5分でできる」と妻は自信に満ちた返事をして準備にとりかかった。

 まず冷凍庫から何かの冷凍食品を取り出し電子レンジに入れた。レンジがブーンとうなっている間に、炊飯ジャーへ行き、弁当箱の半分にご飯を詰めた。そのまま食卓テーブルへ向きを変え、朝食の残りの卵焼きと野菜炒めを詰めた。朝食は私の担当なので、少し前に私が作ったおかずだ。「そうか。その手があるか」と思ったが、迷いなく動く妻を見ているうちに、なんだかおかしくなってきて、口には出さなかった。

 昼になって弁当箱を開けた。ご飯にはいつの間にか、ふりかけがかかっていた。卵焼きと野菜炒めは行儀よく詰められて、朝とは別の顔をしていた。冷凍食品はチーズ入りのハンペンだった。何かもう一品とミニトマトも入っていた。

 夫婦の火種をくぐり抜け、5分で完成した弁当は立派なものだった。「今日も平和で良かった」と、自分で焼いた卵焼きを食べながら思った。
 
(2022年9月26日掲載)
 

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


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