北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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北極星

道北各界で活躍する皆さんによるエッセーコーナーです。 2020年3月までの記事はこちら


村山修(枝幸・ダイニングバー店主)*今年の春は

 外出する機会が減ってしまったとはいえ、日ごとに増す緑は、家の窓からも目に届く。さらに、ギョウジャニンニクを頂いたりして鼻にも届いた。今年は久しぶりにオリーブ油漬けにもして、サクラマスのソテーに前浜のアサリと合わせて一皿にすると、口に入った。

 巡る季節の恵みは今のところ確かで、昨年まで数十年途絶えていた群来(くき)が今年も海を乳白色に染めた。道端を黄色く彩るタンポポが外来種に置き換わって久しい。

 ヒトの活動が春の彩りや自然に影響を与えていることもあるようだ。アスファルトを歩くエゾシカ、時にはヒグマが目撃されたりすることで、やはりそう思わされる。生活が一変し、いろいろ見つめ直してみる時間ができたけれど、人と直接会って話すことが減り、頭の中だけでグルグルしてしまうこともある。

 美しい空と麦畑を象徴したという旗を掲げる国が破壊され、すすけた色の街並みが連日報道されて目に焼き付く。その行いはヒトによるもので、ヒトがいまだにそんなことを繰り返していることに、ヒトは理解が追いついているのだろうか。

 人との身体的距離を考え、マスクを着ける習慣に窮屈さを感じながらも慣れてしまったのだろうか。

 戦禍を目の当たりにして、それに慣れてしまうのはとても恐ろしく思う昨年とも違う春。
 
(2022年5月30日掲載)
 
 

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


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