北極星
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柴田えみ子(旭川・尊厳死協会道支部理事)*最後の日記帳
子供が就職や結婚などで家を離れるのを機に、一人一人につづった日記帳を渡してきた。5人の子供のうち4人はすでに受け取ったが、長男だけはまだだった。障害があり、親元から職場に通っていたためだ。その彼がこの春、47歳にして初めて親から離れ、札幌で生活することになった。長い道のりだったが何とか自立にこぎつけた。
押し入れから日記帳の入った菓子箱を取り出した。5冊が入って重かった箱はすっと持ち上がりコトリと鳴った。大学ノートの表紙は茶色く変色、ページも外れかけていた。夫と子育て時代を振り返り、のりとセロハンテープで丁寧に補強した。
夫婦で学習塾をしながら、再婚同士の私たちは5人の子供を育てた。難しい時期もあった。育児、家事、仕事と寝る間も無い中でそれぞれの日記を付けたのは、5人5様の歩みを記しておきたかったから。一人一人の人生に関わらせてもらい、何よりもこの子たちのおかげで「お母さん」と呼んでもらえる人になれたことは無上の喜びだ。
夫は「わが家の宝は子供たち」といつも言う。その宝と共に日記帳も1冊ずつ手元を離れた。最後になった彼の日記帳を引っ越し荷物にそっと潜ませた。空っぽの菓子箱をなで、「これにて子育て終了」とつぶやくとふいに熱いものがこみ上げてきた。
(2022年4月25日掲載)
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