北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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北極星

道北各界で活躍する皆さんによるエッセーコーナーです。 2020年3月までの記事はこちら


嶋崎暁啓(豊富・自然ガイド)*春の香り

 「春」と聞いて、思い浮かぶ匂いはあるだろうか? 雪解けが進み、草木が芽吹いてくると、さまざまな匂いを感じるようになる。私にとって、「春の香り」と言えばミズバショウだ。
 先日、とてもすてきな体験をした。私が住む豊富町の湿地林では至る所にミズバショウの大群落が見られ、本州から来られた方は驚き感動するが、たいていは道路脇などから見ることになる。だが幸いなことに兜沼公園では、すぐ足元で大群落を見ることができる。
 まばらに咲いている場所では、ぐっと花に顔を近づけないと感じることができないミズバショウの香り。大群落の場合は、辺り一帯が「おしろいの匂い」と表現される独特の香りに包まれている。文字通り、頭の先からつま先まで、全身で春の訪れを感じることができ、何とも言えない幸せな気持ちになる。
 ミズバショウの旬は短い。純白に輝く仏炎苞(ぶつえんほう)はとてもデリケートで、少しでも傷がついたり開花から時間がたったりすると、すぐに茶色く変色してしまう。群落全体が美しい時に行こうと思うと、かなり時期が限られる。毎年春、その時期が近づいてくるとソワソワと気持ちが落ち着かなくなるほどだ。今年は運良く、最高の瞬間に立ち会えた。また来春も道北の水辺でこの香りに出合えることを楽しみにしたい。

(2021年5月17日掲載)

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


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