北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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北極星

道北各界で活躍する皆さんによるエッセーコーナーです。 2020年3月までの記事はこちら


柴田えみ子(旭川・尊厳死協会道支部理事)*ブツがない

 「コロナ禍の今、何を書こうか」と悩む私に、「こんな時こそ笑える話がいいんじゃないの」と夫が提案した。そうなると、必然と自分のことになる。
 講演した帰り道、車の速度超過に気づかず、警察官に止められた。助手席の夫から「行ってらっしゃ~い」と声を送られ、すごすごと交番に入った。書面に氏名や生年月日を書くと、運転免許証の提示を求められたが、バッグの中身を全部出しても見当たらない。
 警察官が「免許証は生年月日で調べられる」と照会の電話をかけるが「該当者無し」。私は「免許は取得してます。札幌の自動車学校でぎりぎりでしたけど取りました!」と言わなくていいことまで言っていた。
 原因は私にあった。夫の生年月日を書いてしまった。大笑いの警察官。疑惑は晴れたが、肝心のブツ(免許証)がない。車内を捜そうと席を立つと、「机の上の財布や手帳を持たなくていいの」と心配され、思わず言ってしまった。「ここ警察でしょう?」
 顔を見合わせて苦笑いの警察官たちに、今度はこちらが笑った。免許証も見つかり無事終了したが、いつもの癖で「また、よろしくお願いいたします」と言ってしまった。車に乗り込むと、満面の笑みで手を振られたが、悔しいのは、その日の取り締まりは私で終わりだったことだ。
 
(2020年10月26日掲載)

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


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