北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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北極星

道北各界で活躍する皆さんによるエッセーコーナーです。 2020年3月までの記事はこちら


大槻みどり(富良野・カフェ経営)*女子高生と富良野駅

 高校生の夏休みに、初めて列車で富良野駅に降り立った。
 学生でお金がなく、自宅のあった江別市の大麻駅から鈍行列車を乗り継いだが、鉄道好きの私はむしろその方が楽しめた。ドラマで見ていた憧れの駅に着いた時は感無量で、しばらくホームと駅舎にたたずんでいた。まさか将来、自分がこのマチに住むことになると思いもしなかったけれど。
 待合室の壁に「富良野線開通90周年」という掲示があった。高校生の私は90年前の富良野の街を想像しようとしたが、見当がつかなかった。「おらが町についに鉄道がやってくる」。それはどんな騒ぎだったのだろう? うれしかったのだろうか、忙しかったのだろうか。意外と無関心だったのかも。そんなことを妄想しながら駅を出ると、正面に大きく美しい山が見えて感動したのを覚えている。
 あの日から30年。憧れの駅は地元の駅になった。壁に「富良野線開通120周年」の掲示。駅舎は変わってないし山も美しいままだが、女子高生は老朽化してしまった。いや、違う。毎年、この駅から鉄道一人旅に出ているけれど、ワクワク感や相変わらず鈍行列車ばかりなのも、あの時と同じだ。8月1日、富良野駅は120歳の誕生日を迎える。どうか長生きしてほしい。駅がある限り、私は女子高生に戻れるのだから。

(2020年7月20日掲載)

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


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