北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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どうほく談話室


美深育成園・理事長 渡辺賢一さん(73)

道北3カ所で児童養護施設運営*家庭環境に近い暮らしを

 【美深】児童がかけがえのない存在であると実感できるように養育する―。こう理念を掲げる美深町の社会福祉法人「美深育成園」は町内と稚内の2カ所で児童養護施設を運営する。2023年4月には東川町にも小規模な施設を開設する。渡辺賢一理事長(73)に園の役割を聞いた。
 
――園の施設で過ごす子どもはどのような事情を抱えていますか。
 「家族から身体、心理、性的な虐待を受けていたり、家庭に経済的な事情があったりします。最近は、子どもの前で配偶者や家族に暴力を振るう『面前DV』での入所も増加しているほか、発達障害の診断を受けた子どもも多く受け入れています」

――養子縁組や里親の選択肢もあります。施設の役割は。
 「心身に傷を負い、リストカットをしたり、カッとなると友達をたたいたりと、自傷・他害傾向のある子どももいるなかで、教員免許や保育士の資格を持つ職員がケアをすることです。育て方が分からずに行き詰まる親もいます。親と一定の間、距離を置き、家庭に戻れるよう後押しします」

――21年から稚内で地域小規模児童養護施設、通称「星の家」を運営しています。23年4月には同様の施設を東川町に開設します。
 「いずれも一般住宅を活用し、定員は6人。旭川児童相談所(児相)の稚内分室には緊急時に保護者から子どもを引き離す一時保護所がないため、施設がその役割を担っています」

――小規模の利点は。
 「職員との距離が近くなり、子どもが甘えやすくなることです。美深の育成園も3~18歳の約30人が3棟に分かれて生活しています。大きな部屋を区切るのではなく、それぞれ個室を設け、プライバシーにも配慮しています。どの施設も家庭に近い環境づくりを心がけています」

――職員間の連携はどうしていますか。
 「育成園では棟や施設の枠を超え、気になる子どもの様子を職員で共有します。登校拒否や自傷行為が続く場合、どう声をかけるか。担当外とも意見を交わし、新しい視点で対応します。保育士や教員の資格を持つ職員が多いですが、いずれも採用は難しいです」

――育成園の歩みを教えてください。
 「樺太から引き揚げた子どもを自宅に引き取った松浦カツさんが1945年(昭和20年)に立ち上げました。当時から人間の尊厳を守ることを理念にしています」

――東京都港区で18年、児相の新設に対し、地元で反対の声が上がりましたね。
 「一時は『地域のブランド価値が下がる』という意見が出たようです。今も児相や児童養護施設への偏見は残っています。非行に走った少年少女が集うという先入観があるのでしょう。でも子どもは学校で机を並べ、一緒に遊ぶはず。そっと見守っていただければうれしいです」(聞き手・稚内支局 菊池真理子)
 
*取材後記
 施設の開所や運営には他機関との連携・調整が不可欠。忙しい中でも「子どもがおいしそうにご飯を食べる姿を見ると、元気になる」とにっこり。入所児が誕生日を祝って歌を歌ってくれたとき「涙が出そうになったよ」と、くしゃっと笑う顔が印象的だった。
 
 わたなべ・けんいち 1949年、札幌市生まれ。北海学園大卒。青森県の金融機関に37年間勤め、2012年から育成園に勤務。20年に理事長に就任した。
 
◇児童養護施設◇
 児童福祉法で定められた施設。保護者の病気や死別をはじめ、虐待などを受けた子どもが親元を離れて生活する。児相が入退所を判断する。
 
(2023年3月20日掲載)
 

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


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