北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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どうほく談話室


東大北海道演習林長 尾張敏章さん(53)

設置125周年 林業スマート化推進*省力化と人材育成 両立

 【富良野】富良野市の面積の約3分の1を占める東大北海道演習林が今年10月に設置125周年を迎える。元演習林長の故高橋延清さんが編み出した森林管理法「林分施業法」で知られ、広葉樹の市場で高値を付けるブランド樹木を産出する豊かな「樹海」だ。同演習林長の尾張敏章さん(53)に林業のスマート化の推進に向けた演習林の取り組みや展望などを聞いた。

――林分施業法のスマート化が進んでいます。
「東大北海道演習林では樹木の密度や種類、大きさで森林タイプ(林種)を区分し、資源量や成長の度合いに合わせて伐採しています。2000年代半ばまではコンパスや間縄(けんなわ)を持って5人一組で森に入っていました。ただ、職員数の減少に伴い、省力化のために衛星利用測位システム(GPS)や全地球衛星測位システム(GNSS)やドローンを導入。今では2人一組で作業できるくらい効率化されました。木の太さなどの高精度なデータの蓄積が可能になり、森の全体像を客観的に把握して管理方針を決めやすくなりました」

――スマート化の推進に必要なことは何ですか
「最新の情報通信技術(ICT)を取り入れるだけで終わるのではなく、職員の日常業務として定着させることです。ほかの森林ではGIS(地理情報システム)などを導入したはいいものの、使いこなせずに終わった例も聞きます。東大北海道演習林では、その分野に強い職員が旗振り役になって、人事異動などで人が入れ替わってもドローンの操縦といった技術が途切れないように職員を育成してきました。取ったデータを森林管理に生かす仕組み作りも大切です」

――林業を取り巻く環境は厳しさを増しています
「少子高齢化の影響で造林や育林の担い手が集まらなくなってきています。また、高度な技術が必要で危険が伴う広葉樹の伐採のような業務の担い手不足も深刻です。演習林も地域の業者さんに支えられています。ともに生き残っていける方法を模索しています。林業の魅力を伝えることに関しては北森カレッジ(道立北の森づくり専門学院、旭川市)に期待しています。卒業生が林業に携わることできっと担い手不足解消の一助になるはずです」

――今後の展望を教えてください
「今後、技術と研究が進めば、市場で高値を付ける銘木をドローンを使って上空から特定することなども可能になるはずです。一方で、職員が現場に出て培った経験も重要です。スマート化と人材育成の両立を図っていきたいです。森林保全とその資源の利用を両立させるという理念をぶらさないように後世に引き継いでいきたいです」
(聞き手・運動部 相武大輝)

 

*取材後記
「森の変化を把握するのは難しい」。30~40年という長い時間をかけて観察する必要があるからだという。「だからこそドローンなどを使って得た緻密なデータを蓄積する必要がある」と尾張さんは言う。農業に比べてスマート化が遅れてきた林業だが、今後めざましい進歩を遂げるはずだ。

 

おわり・としあき 1971年、川崎市出身。東大大学院農学生命科学研究科森林科学専攻博士課程退学。准教授で、専門は森林管理学、林業経営学。2006年6月から18年3月まで北海道演習林で勤務した。同大千葉演習林長を経て、21年4月から現職。

(2024年2月19日掲載)

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


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