北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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旭山動物園わくわく日記

全国的な人気を呼ぶ旭川市旭山動物園の話題やイベント、裏話などを紹介します。 旭山動物園ガイドとしてもお楽しみいただけます。 2020年3月までの記事はこちら


シカと同居「てながざる館」*繊細同士 お互いに刺激


 私は今春から、てながざる館を担当しています。長年飼育員をやっていますが、担当するのは初めて。これまでいろいろなサル類を担当してきましたが、「こんなにデリケートなサルだったのか…」と改めて実感しています。例えば投薬の場合、「さぁ薬だよ、飲みなさい」と言っても、まず無理です。果物に薬を埋め込んで手渡しで与えるのですが、最初は「あんた誰?」という目で、こちらをチラッと見るだけで取りに来てくれません。まずは認めてもらうことから始まります。

 とても繊細で神経質な動物です。こちらの動きやいつもと違う状況、大きい音など少しでも不安なことがあると、とたんに便が軟らかくなります。特に雷が嫌いなようで、動揺からか夕方なかなか寝室に入ってくれないこともあります。

 てながざる館では「キョン」という小さなシカの仲間と同居しています。これがまた臆病な性格で、最初は朝ごはんの大好きなニンジンすら取りに来てくれないなど警戒心の塊でした。日々のつきあいで少しずつ精神的な距離を詰め、コミュニケーションをとり、信頼を得る。そしていい関係を継続する。人間社会と同じでしょうかね?

 旭山ではテナガザルとキョンのように別種の動物を同じ空間で飼育する「共生展示」を行っています。同じ生息地や同じ環境など一定の条件に基づき、クモザルとカピバラ、ニホンザルとイノシシ、アザラシとカモメ、オランウータンとカワガメなど。仲良く暮らすというよりは、お互いを意識し、気にしながら暮らす。刺激を受けあいながら過ごす。なるべく退屈な時間を与えない。だけどリラックスできる空間もつくります。

 人も動物もストレスのない世界は恐らくないでしょう。ならばそれを打ち消す楽しみだったり好物だったり、遊びだったり…。動物たちの望みは何か? それを考え、与え続ける。そんな飼育員になれれば幸せです。ぜひ共生展示施設に足を運び、彼らの距離感や少しの緊張感を感じてください。(テナガザル・キョン・アザラシ担当、副園長 中田真一)
 
(2022年9月19日掲載)
 

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


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