北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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北極星

道北各界で活躍する皆さんによるエッセーコーナーです。 2020年3月までの記事はこちら


漢(はた)幸雄(士別・劇場館長)*老化の入り口

 両手に荷物を持ったまま階段を下りた。最後の1段が空中だと認識したときには地面にたたきつけられていて、両手でとっさに体を守ったのだろうが痛みで呼吸ができない。

 しばらく身動きもできずに地面に転がっていたのだが、起き上がろうとしても体が言うことを聞いてくれない。自分のうなる声を人ごとのように聞きながら、それでもようやく膝をついて起き上がった。両手、肘が血まみれで服が破れている。なんとか車に乗り運転席に座ったものの、動悸(どうき)が激しいまま。血をぬぐってぼんやりと前を見ている。

 いやはや転んだ原因がわからない。後日レントゲンを撮ってもらったのだが、「残念ながらあばら骨は折れてないね」と医者はのたまう。せきをする、体をひねる、物を持ちあげる。何をしても胸が痛い。あばら骨は多少のヒビが入ったところで放置しておくしかないらしく、1カ月は薬と湿布が手放せなくなった。

 そういえば最近はちょっとした段差にもつまずくことがある。気にもせずにいたらこの体たらくだ。還暦を超えた身としては、気持ちがいくら若いつもりでも老化は着実に進んでいるということだろう。90歳になる父に言わせると、まだまだ老化の入り口らしい。70歳、80歳の壁はもっとすごいぞと笑われてしまった。恐るべし、先達の一言。

 

(2021年10月25日掲載)

 

 

 

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