北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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北極星

道北各界で活躍する皆さんによるエッセーコーナーです。 2020年3月までの記事はこちら


大槻みどり(富良野・カフェ経営)*動揺

 「もう消えたいな、いなくなっちゃいたいかも」。部屋に入ると、14歳の女子が頭を抱えて小さくつぶやいた。私は激しく動揺した。子どもがいない私はこんな時、返す言葉がわからない。でも、今この空間には、私と彼女の二人きり。大人として、何か応えなければ。

 昭和の青春ドラマのような奇麗ごとのセリフは、令和の時代には響かないだろう。かといって、冗談で笑い飛ばしてしまっては、しぼりだして伝えてくれた彼女に失礼だ。あぁでももう時間切れだ、どうしよう。

 「まだ食べてないおいしいものがあるでしょ」。最悪だ。何を言っているんだ私は。伏せていた彼女が顔を上げ、まっすぐに私を見た。動揺はさらに激しくなった。ミスを挽回しようと焦ると、人はさらに深みにハマるものだ。「まだビールのおいしさだって知らないのに」

 無言で私を見つめる彼女の目は、怒っているわけでも、納得しているわけでもなく、懸命に何かを考えているようだ。沈黙に耐え切れず、私は付け足した。「だから消えたいとかいなくなりたいなんて言わないで」

 すると、彼女はハッとして言った。「やだもう! ケータイない、なくなっちゃったかもって言ったんだよ!」。ケタケタと笑う彼女の横で、私は脱力感と恥ずかしさで膝から崩れ落ちた。消えてなくなりたい、それはこっちのセリフだった。

(2026年03月30日掲載)

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


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