北極星
道北各界で活躍する皆さんによるエッセーコーナーです。 2020年3月までの記事はこちら
國枝保幸(市立稚内病院長)*新米医師だったころの話
北大医学部を卒業後、大学病院の内科医として働きました。週末は外の病院で当直勤務をするよう指示されました。大学病院には先輩医師がいるのですが、当直は一人で行きます。
札幌郊外の病院で当直した時のことです。老人ホームから、入所者の具合が悪いので診に来てくれと言われました。入所者の部屋に入ると、おばあさんがベッドの上であえいでいました。口から苦しそうに泡を吹いています。「ピンク色の泡沫(ほうまつ)状の痰(たん)」―。内科学の本に心不全の特徴的な症状として記載されていました。
病院まで患者を搬送し、看護師に治療の指示を出しました。酸素投与と楽なセミファウラー位(上半身を少し起こした体位)を指示し、心臓の負荷を減らすため、ラシックスという利尿剤を半分量静脈注射して様子を見ることにしました。当時はそれくらいしか治療手段がありませんでした。
あとは看護師が経過観察してくれます。しかし、初めての経験で不安で仕方ありません。看護師に気づかれないよう、こっそり病室に様子を見に行きました。何回か訪室した時には、すっかり夜が明けていました。患者は僕の顔を見ると、穏やかな呼吸の中で「先生ありがとう」と笑顔で答えてくれました。
自分が医師として生きる原点は、この日にあったと思います。
(2024年10月07日掲載)
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