どうほく談話室
釣り具販売店「ワイルド・ライフ」代表 千葉貴彦さん(59)
名寄拠点にフィッシングガイド*天塩川の魅力信じ後継者育成
【名寄】名寄市を拠点に天塩川で魚釣りのガイドサービスを行う釣り具販売店「ワイルド・ライフ」。20年の実績を重ね、北米や欧州、アジアから観光客が集まる。国内外で釣りをして名寄にUターンした代表の千葉貴彦さん(59)に天塩川の魅力やガイドの可能性を聞いた。
―フライフィッシングについて教えてください。
「英国が発祥の釣りの手法で、虫に似せた疑似餌『フライ』を使います。フライは主に鳥の羽根で作ります。さおを振って重いフライライン(糸)をムチのように川へ飛ばします」
―釣りはいつから。
「漫画『釣りキチ三平』に憧れて、小学4年でルアー(魚などの疑似餌)を使った釣りを始めました。一度離れましたが、マチでの遊びに飽きた26歳で再燃して、(後志管内の)ニセコでよく釣りました。フライフィッシングは28歳のとき、名寄川で友達からさおを渡されて『振ってみな』って。やったら難しく、『こんなにできないことがあるんだ』と衝撃を受け、練習するようになりました。重りがあるルアーとは違い、風や川の流れに影響されるので、考えることが多くて楽しい」
―ニュージーランドで暮らしたそうですね。
「ニュージーランドの観光パンフレットに載ったニジマスを持つおじさんの写真を見たら、すぐにでも行きたくなり、仕事を辞め、観光しながら就労できるワーキングホリデーで行きました。現地では1年弱、昼は釣り、夜はスターウオッチングツアーのガイドという生活をしていました」
―なぜガイドに。
「本当は自分のとっておきのスポットを教えるのは嫌で、ガイドになりたくなかった。でも、他にできる仕事がなくて、ニュージーランドの友達をお客に始めました。お客さんが釣れたときの顔を見て、すごくうれしかったのです」
―名寄を拠点に選んだのは。
「日本中を回り、ここが一番良かったからです。天塩川ではイトウやイワナなど、北海道にいる魚が全部釣れます。川岸が昔ながらの景色で人工物が目に入らず、釣りをしながら四季の変化を楽しめる。こんなぜいたくな場所ありません」
―フィッシングガイドが増えると道北に変化は起きますか。
「米国では釣り人が集まって発展した町があります。カナダでは1日に10万~15万円稼げるガイドがたくさんいます。道北でも同じようにできると思います。元々英国の貴族の間で広まった釣りの手法で客は富裕層が多く、海外の厳しい決まりの中で楽しむ人たちでマナーも良い。オーバーツーリズムにもなりにくい」
―課題は何ですか。
「日本では釣ってはいけない魚の種類が多いことです。欧米にはいない魚がいるのですが、複雑で海外への宣伝が難しい。リリースするなら釣れるなどの決まりができれば、もっとガイドの可能性が広がると思います」
―今後の展望は。
「フィッシングガイドという職業が世間に広まり、若い人たちが目指すようになってほしい。ガイドで生活できることを見せながら後継者を育てようと、地域おこし協力隊員2人を指導しています。引退後は、魚の産卵と生息の場所を守る制度づくりや川沿いの駐車場設置など、環境整備に向けた活動を通じて現役ガイドを支えたいです」(聞き手・丸橋芽久)
*取材後記
「高校卒業時に『二度とこんなマチに帰ってくるか』と父に言ったよ」と千葉さんは振り返る。郷里を離れ「都会にはない大自然で何でもできる」と良さに気付いたという。「多くの植物が生え、魚も動物もいる田舎はガイドに最適。職業として定着すれば、一度離れた若い人が戻ってくる理由になる」と話す。道北にガイドが集い、地域と調和しながら観光で栄える可能性を感じた。
ちば・たかひこ 1965年、名寄市生まれ。名寄工業高(現名寄高)卒業後、札幌市でタイヤメーカーや洋服店で働く。96年に仕事を辞めニュージーランドに10カ月滞在した後、日本全国で釣りをする。2005年にUターンし、釣具店兼フライフィッシングガイドの「ワイルド・ライフ」を開業した。
(2025年06月16日掲載)
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