北極星
道北各界で活躍する皆さんによるエッセーコーナーです。 2020年3月までの記事はこちら
奥田修一(中富良野・北海道風景画館主宰、画家)*ゴッホの愛
ゴッホというと、うねるような線描の絵を描き、自ら耳たぶを切り落とし自裁した狂気の画家というイメージを持つ方も少なくないだろう。
しかし実際は、みすず書房の6巻にも及ぶ書簡全集を読めば分かるが、理知的でありマザーテレサのような弱者への労(いたわ)りの心を持つ人である。
彼は父のような牧師になりたかったが、ラテン語で躓(つまず)き、伝道師としてボリナージュという炭坑の街に赴任する。劣悪な環境で働く者の中には、着る服さえもなく「FRAGILE(こわれもの)」と書かれた部品か何か入っていた麻袋を着て重労働をする者もいた。
彼は小奇麗な服を着て説教をする自らを恥じ、持ち物のほとんどを必要な人々に与え、自らもボロを纏(まと)いイエスを語るが、地域の伝道師協会は権威を落としめる行為として彼を解雇する。
彼は一度だけ結婚生活のようなことをしている。相手は身重の子連れの娼婦(しょうふ)シーン。家族は猛反対するが、彼は「女を捨てる男と人生を共にする男とどちらが人間的なのだ」と引き下がらない。彼女を描いた「悲しみ」という画は、彼が言う通り若くも美しくもなく皮膚の垂れ下がった女が膝を抱え俯(うつむ)いている。
そんな彼女もまた元の商売に戻って行き、ゴッホは性病で入院することになる。彼の絵が人の心をゆさぶるのは、彼の愛が人の心をゆさぶるほど激しく人間的愛に満ち溢(あふ)れていたからに他ならない。
(2025年04月28日掲載)
※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


