北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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どうほく談話室


稚内唯一のスノーボード店主 木村亘さん(48)

愛好者、競技者支え四半世紀*プロ育成 最北から挑戦

 【稚内】四半世紀にわたってファンが集う市内唯一のスノーボード専門店「SEA MORE」。店主の木村亘さん(48)は地元チームのヘッドコーチを務め、プロ選手も育成している。小さなスキー場を拠点に、最北のまちで挑戦し続ける思いを語ってもらった。(聞き手・稚内支局 菊池真理子)

 
――開店のきっかけについて教えて下さい。

 「高校卒業後、はやっていたスノーボードを友達と始めました。市内の建設会社で電気設備の施工を担当し、仕事が終わると、スキー場のナイターへ通う日々でした。そんな中、地元で用具を扱っていた店が閉店したので、とりあえず自分でやってみようと、軽い気持ちで店を構えましたね」

――店の特徴は。

 「開店当初はメーカーに注文しても『22歳の兄ちゃんが…』と断られてばかり。少しずつ顔をつなぎ、仕入れ先を広げました。今では板、靴、金具、ウエアのセットを100~150セットそろえています。通販で気軽に商品を買える今の時代に、ワックスを塗ったり、故障時に修理したり。充実したアフターケアが地域に根ざす店の付加価値です」

――活動拠点は市内のこまどりスキー場ですね。

 「大きなスキー場ではゴンドラに乗って山頂から下り、ジャンプ1本を飛ぶのに30分かかることもあります。でも、こまどりはリフト2基のみで、10分もかからず次のジャンプを飛べます。反復練習で技の完成度を高められます。小規模ならではの強みもあります」

――子どもへの指導にも力を入れていますね。

 「約20年間、小学生対象のスクールを続けてきました。初めて滑る人も、ジャンプを飛べる人もレベルに合わせて参加できます。高校生時代に店に来ていた人が結婚して親になり、子どもとスノーボードをする姿を見るのもうれしいです」

――プロを目指すクラブチームも運営しています。

 「昔は『稚内からプロ選手を出したい』と言うと、笑われました。寄付を募り、ジャンプ台の土台を土で造ったこともあります。目標を言い続けるうちに、地域の人も支えてくれるようになりました。今はプロ選手6人を含め、市内のほかに名寄市や羽幌町などの計25人が所属。通年で独自の練習プログラムがあり、雪上練習だけでなく、オフシーズンにはトランポリンを活用し、ヨガも取り入れています」

――観光名所の管理など活動の幅を広げています。

 「利尻山を望む『コウホネの家』や白鳥の集まる『大沼野鳥観察館』を管理しています。大沼湖畔にテントサウナも試験的に設営し、稚内ならではの自然をもっとPRしたいです」

――昨秋発足した「総合型地域スポーツクラブ」の理事長にも就任しました。

 「稚内出身のアスリートが地元で働き、得意な競技で子どもを指導できる。そんな環境を整えることが私の役割だと思います」

 
*取材後記
 「学祭に出店するようなノリで店を始めたんです」とちゃめっ気たっぷり。スキー場が減り続ける中で競技の裾野と、アスリートのセカンドキャリアをどう広げるか。「プロになれるのはほんの一握り。スノーボードをやめても、豊かな人生を送ってほしい」と真剣に語る姿が胸に残った。
 

 きむら・わたる 1974年、稚内市生まれ。稚内商工高卒。97年に「SEA MORE」を開業した。道スキー連盟スノーボード部の強化委員長を務める。春から秋にかけては稚内周辺でサーフィンも楽しむ。
 

(2023年2月20日掲載)

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


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