北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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旭山動物園わくわく日記

全国的な人気を呼ぶ旭川市旭山動物園の話題やイベント、裏話などを紹介します。 旭山動物園ガイドとしてもお楽しみいただけます。 2020年3月までの記事はこちら


ホッキョクギツネ*じっと動かず まるで仙人


 この夏、人気のマヌルネコ、レッサーパンダの前にできた人垣を横目に、灰褐色のほっそりしたホッキョクギツネがチシマザクラの根元に隠れるよう、静かに暮らしていた。ほとんど動かない。胸に白い冬毛をわずかに残し、落ち着いて見える顔はまるで「仙人」だ。

 人気者と隣り合う展示場所にいるのは、寒いエリアに住む仲間としてまとめられたため。ほっきょくぐま館も近い。北極圏の野生下では、鼻を利かせてホッキョクグマが食い残したアザラシの肉を探して食べるため、縁の深い存在でもある。

 極寒で体力を保てるよう、じっとしているのが基本姿勢。体つきも寒さに適応して鼻や耳が短く、脚も短い。昼間は木の下や草陰で寝ており、担当飼育員の鈴木達也さん(29)は「とても自由で、野生らしさがある。これが最適な生き方だが、寝てばかりでつまらないと思われることもある」と苦笑いする。

 警戒心が強く、餌の魚や鶏肉が置かれても、人目がなくなってから食べる。厳しい環境で生き抜くため「園で一番の雑食」(鈴木さん)で、バナナの皮も食べたことがあるという。

 検疫の厳しさからか輸入例が少なく、国内の公立動物園では旭山だけ、しかも1匹だけいる希少な動物。民間施設でも、ノースサファリサッポロ(札幌市)と蔵王キツネ村(宮城県)にいる程度とみられる。

 鈴木さんが「コンちゃん」と呼ぶ個体は、推定11歳前後。野生下の寿命は5年ほどというから、かなりの高齢だ。週1回サプリメントを与えたり、獣医師が体を洗ったりして世話をする。「いつ死んでもおかしくない。この夏も持ちこたえてくれた」と胸をなで下ろす。

 10月ごろに生え始める冬毛は、人間が手に持つと汗をかくほど密度が細かく、今の姿からは想像もつかないボリュームになる。春はサクラの花に囲まれ、毛が生え替わる夏は灰褐色でほっそり。秋に白くなり始め、冬は真っ白でもふもふ―。季節ごとにこれほど姿を変える動物はそういない。(鳥潟かれん)

 

【写真説明】ほとんど夏毛に生え替わったホッキョクギツネ。動いているところを見られたらラッキーだ(諸橋弘平撮影)
(2022年9月5日掲載)
 

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


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