北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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北極星

道北各界で活躍する皆さんによるエッセーコーナーです。 2020年3月までの記事はこちら


村山修(枝幸・ダイニングバー店主)*いつもの季節

 ライラックの花が咲いてきた。ウニ漁が始まり、鮮やかなオレンジ色の身が店頭から初夏を感じさせてくれる。ただ今年は、なかなか実感できないまま季節が進んだ。
 4カ月前、「あしたの朝は雪かきだなぁ」と吹雪で見えもしない窓の外を見る。3カ月前、カニ漁が始まってフキノトウが顔を出し、芽吹きの季節の到来を喜ぶ。ミズバショウの群生を眺めながら歩き、やがて目にまぶしい青葉へと、気持ちの良い穏やかな日々へ。
 ちょうどそんな時期、次々に新しい言葉が出てきた。「行動変容」「3密」「新しい生活様式」…。新型コロナウイルスの感染拡大により、不要不急の外出自粛や休業要請も出された。
 同じころ、家から歩いて5分もかからない範囲では、ギョウジャニンニクやヤマワサビが食べごろ。海ではニシンがとれだし、サクラマスもやってきた。待望の春が、過ぎていった。
 市街から少し離れ、数軒しかない小さな集落の中で、母はいつものように小さな畑に種をまき、シカ対策を思案している。ウドが伸びていたので酢みそあえと天ぷらにして、春を送り、夏を迎えつつある。
 当たり前の日常が変わる、とは言う。でも、モニターでライラックを眺めることはできても香りは届かないし、ウドを採ることも、リモートではできない。

(2020年6月8日掲載)

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


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