北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

北極星

道北各界で活躍する皆さんによるエッセーコーナーです。 2020年3月までの記事はこちら


谷龍嗣(留萌・僧侶)*再スタートの一日

 2001年3月10日の早朝、墨染めの衣姿の私は横浜市にある大本山總持寺(そうじじ)の玄関に立っていました。

 そこは禅の修行道場。前日まで学生だった私にとって未知の世界でした。「ごめん下さい」の代わりに玄関の木の板を打ち鳴らします。しかし、すぐに迎えの僧侶が来るわけでもなく、数時間そこに立ち続けます。厳しい禅の修行道場に入る意思が本当にあるのかを試しているのです。

 数時間後、先輩僧が現れ、木の棒で玄関の床を「ドン」と一突き。「尊公、お山に何しに来た」と問われたところから、私の修行が始まりました。

 早朝から坐禅(ざぜん)、お参り、作務、食事、就寝に至る全てが規則に従って進んでいきます。「何のためにやっているのか」。そんな思いで過ごした日もなかったわけではありません。

 お寺の子として生まれた私は「僧侶になろう」という発心ではなく、「寺を継ぐ」という、どこか曖昧な思いで僧侶になりました。

 しかしその後、ある老師から教わりました。いわく「お寺に生まれた僧侶にとって、在家出身僧侶の発心に代わるものは、僧侶としての使命感。僧侶として頂いた命を、何のためにどう使うかが大事である」。

 一度しかない人生。頂いたこの命を悔いなく大切に使って生きたい。3月10日は毎年、私の人生再スタートの一日です。

(2025年03月24日掲載)

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


GO TOP