北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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どうほく談話室


「添牛内駅保存会」会長 山本昭仁さん(44)

資金募り駅舎改修*暮らしの記憶 次世代へ

 【幌加内】1995年に廃線となった旧JR深名線の添牛内(そえうしない)駅舎の保存活用に取り組む「添牛内駅保存会」。9月には同駅で使われていた「切符保管箱」が愛別町から戻り、鉄道ファンらの反響を呼んだ。駅前のそば店「霧立亭」店主で、会長の山本昭仁さん(44)に、添牛内駅への思いや活動目標などを聞いた。
 

――この駅舎の魅力を教えてください。
 「ここに住んでいた人は生活や通学、日々の営みの中で駅を使い、思い出を持っています。みんなで話すと、多くの家があった昔のことを懐かしむことができます。地域の思い出を駅がつなげてくれる。その縁の多さにびっくりします」

――活動3年目の保存会発足のきっかけは何ですか。
 「人や建物も少なくなった添牛内。活動前も草刈りや、柱や壁を修繕している人がいて駅舎を守る人の思いを知っていました。全国にも鉄道ファンがいました。この財産を次の世代に残したいと思い、2019年末、地元の人たちに呼び掛けました。私一人ではできないので、壊れかけた駅舎を直したいと話したら、思いをくんでくれました」

――22年7月からクラウドファンディング(CF)で改修費用を集めました。
 「CFを使ったことでウェブサイトなどを通じて改修したことが伝わり、住んでいた人も見に来てくれました。昔の建物を守っていることを知れば、来る人はいると思いました」

――倒壊の危険もあったという建物の修繕では、何に苦労しましたか。
 「大工さんが『柱は腐っているし、どうやって建っていたのか』と驚いていたほどです。資材高騰で断念しかかりました。でも、話を聞いたり、昔の写真を集めたりして直し方を考えるところから始めました。350万円で土台と外壁は直せるのでCFの目標額にして、さらに集まったら、屋根を直そうとなりました」

――「切符保管箱」が戻り、反響がありました。
 「保管箱の内側に添牛内駅の時刻表が貼った状態で残っていたのは奇跡です。また、駅を地元で守っていることを知ってもらえていたからこそ、戻ってきたと思います。今も毎日2人ぐらい見に来る人がいます。霧立亭では愛別町のキノコを使ったそばとマイタケ天そばの新メニューを準備中です。この縁をきっかけに愛別とコラボしたいです」

――今後、この駅をどうしていきたいのでしょう。
 「駅は31年に開業100年を迎えます。私は添牛内に店を持ち、ここが好き。地域の子には、駅を見守ってくれるファンがいることや、昔はいろんな商店があって、800人ぐらい人がいたと伝えたい。駅舎の保存も大切ですが、多くの人々が暮らしていた事実を残すことが目的なのです」
(聞き手・士別支局 増田隼斗)
 
*取材後記
 6月に開かれた添牛内駅舎の内覧会には道内外から約120人が訪れ、「ソバ畑がきれいだった」「買い物や映画館に行くのに使った」と懐かしんだ。廃線になっても、利用した人の思い出は色あせないのだと感じた。山本さんは鉄道ファンではないというが、駅舎について聞くと何時間でも途切れることなくエピソードを教えてくれる。「乗り鉄」の私は旧深名線の廃線後に生まれたが、駅舎を取材するのがいつも楽しい。
 
 やまもと・あきひと 1979年、幌加内町生まれ。深川東商業高(現深川東高)卒。札幌で働いた後、2002年に帰郷し、母親が開業した霧立亭で働く。駅舎を譲り受け、21年に仲間と「添牛内駅保存会」を正式に設立し、会長に就く。現在、店は妻と営み、中学生の息子2人も手伝う。

(2023年10月23日掲載)

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


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