北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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北極星

道北各界で活躍する皆さんによるエッセーコーナーです。 2020年3月までの記事はこちら


森川理加子(士別・羊農家)*アヒルが飛んだ

 小学生になったばかりのある日の夕方、牧草刈りから戻った父が鳥の巣を持ち帰ってきた。機械に巻き込んでしまい、親鳥は死んだが卵は無事だったという。祖父が「うちの七面鳥に預けて卵をかえすか」と、鳥の巣を当時飼っていた七面鳥の小屋にそっと置いた。

 私は子供ながら、自分で産んでいないのに―と疑ったが、祖父は本能的に抱くはずだと言う。七面鳥は卵を抱き、しばらくしてひよこたちが姿を現し、七面鳥とまるで親子のように行動した。やがて成長したひよこたちは庭の池で泳いで遊び、そして空を飛んだ。

 祖父はひよこたちを「アヒル」と呼び、私もそう信じた。今から思えばあれはカモだったが、幼かった私はアヒルも努力すれば飛べるようになると信じ、友だちに「うちのアヒルは空を飛べるんだよ!すごいしょ!」と自慢した。

 先日、11歳の娘と博物館を訪れた際、カモのはく製展示を見てこの恥ずかしい「自慢話」を思い出し、告白した。娘は「それはうそを教えたじーちゃんが悪い。どんまい」と慰めてくれた。

 祖父は「うそ」を言ったわけではない。あのころの農民は、不正確でも、何か呼びやすい名前を付けて「まぁ細けぇことはいいべや」とおうようだった。娘が「どんまい」と慰めてくれたのは、祖父に似たのかな。
(2024年02月26日掲載)

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


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