北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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どうほく談話室


NPO法人旧丹波屋旅館保存活用プロジェクト理事長 菊地幸男さん(74)

CFの資金で建物調査着手*期待の大きさ 責任の重さ実感

 【中頓別】町内小頓別にある国の登録有形文化財「旧丹波屋旅館」は、和風と洋風の建物をつなげたユニークな外観が目をひく。「NPO法人旧丹波屋旅館保存活用プロジェクト」は建物の再生に向け、インターネットを通じたクラウドファンディング(CF)で寄付金を集め、建物の調査を開始した。理事長に今年就任した菊地幸男さん(74)に話を聞いた。
 
――CFでは、目標の350万円を上回る403万円が全国の200人以上から寄せられました。
 「初めての試みだったので無理じゃないかと思っていました。途中、伸び悩みましたが、テレビのニュースでも取り上げられたことで寄付が集まりました。目標を達成してほっとしたと言うよりも、寄付してくれた方々の期待の大きさに『いいかげんなことはできないぞ』と責任の重さを実感しました」

――和風建築の2階建ては1914年(大正3年)ごろ、増築された3階建ての洋館は27年(昭和2年)ごろに建てられ、約1世紀がたちます。建物の傷みはひどいのですか。
 「小頓別は雪が多い所です。建物の裏は山で、冬は日が当たりにくく、春先には雪解け水が流れ、土台を腐らせています。建物の中は、戸を閉めても隙間ができ、素人目にも傷んでいるのが分かります。夏になると、車を止めて写真を撮る観光客に『中を見てみたい』と言われることも多いですが、現在は入ってもらえる状態ではないのが残念です」

――丹波屋旅館が営業していた頃の小頓別は、どんな雰囲気だったのですか。
 「25歳の時、小頓別駅に降り立ちましたが、今から想像できないほどにぎやかでした。歌登や枝幸に向かう人も多く急行列車が止まり、商店もありました」

――建物の状態の調査が始まりました。
 「まず、11月に3D計測調査を行いました。測定機を持ち建物の内外を歩き回ってデータを集めると、パソコンで正確な立体図が描き出されてすごいと感心しました。土台や建物全体の傷み具合も調べ、来年3月末までに報告書をまとめる予定です。結果を基に、今後どうするかを考えていきますが、再び中に入れるようにするには今回とは桁違いの費用がかかるでしょう」

――菊地さんを引きつけるこの建物の魅力とは何でしょうか。
 「旧丹波屋旅館は小頓別が最も栄えていた時代を象徴する建物。地域にとっての宝です。今回のCFを通して、町内の方にも旧丹波屋旅館を改めて認識してもらう機会になりました。来年からは、見る目が変わるのではないかと期待しています」(聞き手・枝幸支局 佐々木克昌)
 
*取材後記
 北海道新聞留萌宗谷面の文芸コーナー「火曜さろん」に色鉛筆画を投稿してくれる菊地さん。鉄道が走っていたころの小頓別を描いたぬくもりある作品からは、地域を再び盛り上げたい思いが伝わってくる。
 1989年の天北線廃止で旅館の営業を終えた後は住宅に使われたが、現在は空き家でNPO法人が所有管理している。地域の貴重な文化財を残す取り組みを私も応援していきたい。
 
 きくち・ゆきお 1949年、福島県いわき市出身。東京のサラリーマン生活を経て23歳から天塩町の牧場で働く。一度いわきに戻った後、25歳で中頓別町小頓別へ。2014年に牧場を就農者に引き継ぎ、酪農業を引退した。
(2023年12月18日掲載)

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


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