北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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【特集】


地元高校生がお仕事別に聞いてみた!みなさんが考えるデザインってなに?

 

6月17日から25日まで開催されるデザインの祭典「あさひかわデザインウィーク」。その企画の一つとして、「デザイン」について触れる新聞を高校生たちが制作しました。ユネスコデザイン都市として、10年後の旭川が素晴らしい街になるために大事なものは何か、デザインに関連する4つの職業の方々に取材しました。

 


旭川北高等学校多くの生徒が勉学だけでなく部活動や探究活動等にも積極的に励んでいるのが当校の特色です。私たちは「デザイン」についてもっと詳しく知りたいという思いから参加。左から宮崎、向中野、石塚、川谷の高校3年生が担当しました!

旭川農業高等学校当校は今年度100年を迎える、農業学習に特化した歴史ある学校です。私たち4名は明るく元気に活動することをモットーに日々の学校生活を楽しんでいます。学年や学科が異なったメンバーですが、学校だけでは学べない、新しい視点を身につけたいと思い参加。左から木村、石田の3年生と2年生の渡邊、星野が担当しました。

 

 


澤村尚浩建築計画室
旭川市旭岡5丁目7-74
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事務所やお仕事について教えてください

住宅から公共施設まで、設計を行う中で、常に施主に寄り添い創造しています。主な仕事である設計図の制作、現場監理に加え、敷地環境の読み込みや建築計画のワークショップなども行っています。また、設計をする上で施主との関係を大切にしていますね。自分のオリジナリティーを出すのではなく、施主のライフスタイルやさまざまな要望を取り入れながら設計しています。自身が手掛けた建築物が存在する限り、施主と一緒に愛着を持ってメンテナンスや手直しを行い続けます。“素直に、丁寧に、細やかに”が基本理念です。この信念のもと、管理しやすいシンプルで長く持つ設計を心掛けています。取材場所の「Japacheese Asahikawa」というお店も手掛けた建築物の一つで、古い梁など素材を生かしています。

澤村さんが思う「デザイン」とは何ですか?

目に見えるものや手に取って感じられるものではなく、構想を練ったり考え直して深掘りしたり、挑戦し考え続けて創作する時間、そういった生み出す過程こそがデザインであると考えています。また、アイデアを生み出すヒントにするため、普段から「なぜこの形、色なんだろう」と疑問を持つようにしています。そうすると、日常の至るところからインスピレーションを受けることができますね。特に住宅を設計する際は画一的でモデルハウスのような家を建てるのではなく、施主の趣味や好み、ライフスタイルを踏まえて検討を重ね、施主の暮らしにとって必要なオリジナルの設計をしています。

澤村さんが思う10年先の旭川が「デザイン、素晴らしいね」と言われるためには?

一人一人ができるだけ地元で経済を循環させる意識を持つことが旭川の魅力につながると思います。本州などの同じ人口規模の街に比べて、旭川は土地が安く疲弊している印象です。そこで、旭川市内で暮らしが完結するような街づくりや暮らし方を進めていくことで、「らしさ」が生まれより良い旭川になるのではないでしょうか。また、私自身が建築・設計だけでなく、旭川をどのように活性化させるかを考えていきたいです。そうすることで、旭川市民や観光客にもデザインや設計の大切さを伝えることができ、「デザイン、素晴らしいね」と旭川の景観に目を向けてくれる人が増えると思います。

 

 


株式会社谷口農場
旭川市東旭川町共栄255番地
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谷口農場の特徴を教えてください

当農場は、耕地面積約75haの畑でお米やトマト・トウモロコシをはじめさまざまな野菜を栽培しています。また、それらを缶ジュースやゼリーなどに加工してしているのが特徴で、自社で作った商品を直売所や旭山動物園でも販売。現在はフルーツの甘酒やトマトの甘酒の開発もしていますよ。私の業務としては、プライベートブランドをお客様と一緒に作ることもありますし、お米やブロッコリーなど農作業のマネジメント、実際に農作業もしています。

小関さんが思う「デザイン」とは何ですか?

デザインというと形を想像しますが、さまざまな角度から見つめることで見え方が変わってくるものだと思っています。「ゆうきくん」というトマトジュースがあるのですが、1990年に発売してから今まで30年以上にわたりロゴデザインを変えず、作った時の思いを大事にして販売しています。有機栽培のトマトを完熟させてから加工し、酸味と甘みのバランスを調整。毎日飲んでも飽きないようにしました。また、容器には環境負荷の少ない再生可能資源を使い、中身だけでなく外側の容器にもこだわっているのが特徴です。他にも季節ごとに変わる農場の風景もデザインと言えるのではないでしょうか。

小関さんが思う10年先の旭川が「デザイン、素晴らしいね」と言われるためには?

当農場では現在トマトの有機栽培に力を入れていて、今後は有機栽培を全面的に行いたいと思っています。変わりゆく気候や環境に負荷を掛けないようにすることがこれから目指す谷口農場の形です。10年後の旭川市が「デザイン素晴らしいね!」と言われるためには、外側のデザインに着目するのではなく、物事や中身に意識を向けることが大切です。例えば高校生や大学生が旭川でできることを探して一つのものを作り上げ、今後どうなっていきたいのかを真剣に考えることが鍵になりますね。旭川でできることは必ずあるので、皆さんや他の学生の方もこのまま地元に残ってほしいと思っています。

 

 


デザイン事務所 カギカッコ
旭川市6条通7丁目31-24 YMS 2階
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事務所やお仕事について教えてください

「デザイン事務所カギカッコ」では、商品のパッケージやパンフレット、名刺などのデザインを手掛け、どのような仕事に対しても丁寧に取り組める環境づくりを目指しています。また、自分たちの作ったデザインが誰かの力になり、自分自身も達成感によって幸せを感じる、このような関係が理想のサイクルです。デザイナーではない人に対しても、商品パッケージなどを通してデザインについて知ってもらうことで、いろいろな視点を持ってほしいと考えています。

ゲンマさんが思う「デザイン」とは何ですか?

伝えたいことを目的や対象に合わせて形にしたり、機能を持たせることです。そのために、まずは依頼者の話をよく聞きます。そうすると、相手の思いや本当に求めていることを引き出すことができますね。この過程で聞き出した情報から、依頼された形式よりもふさわしいと思う方法を提案したこともありました。ある程度構想が固まったら、次は検証。実際に考えたものを一度形にしてみます。これを何度も試行錯誤して行うことがより良いデザインにつながります。さらに「さまざまな視点を持つこと」、これもまたデザインに大切なことです。普段からこういった姿勢を心掛けることで、デザインが分かるようになりますよ。

ゲンマさんが思う10年先の旭川が「デザイン、素晴らしいね」と言われるためには?

デザイナーとしては、10年経っても古くならない長持ちするようなデザインを意識しています。「デザイン、素晴らしいね」と言われるためには、まず旭川市民全員がデザインとは何かを知っていくことが大切です。日々の生活でも「これ、デザインだよね」という会話が生まれるような、そんな日常的なものにデザインがなっていくべきだと思います。デザインはデザイナーのものだけでとどまるのではなく、広く他の方々にも使われていくことが大切になっていくことでしょう。

 

 


壺屋 き花の杜
旭川市南6条通19丁目 218-2-103
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壺屋総本店の特徴を教えてください

当社は、創業94年を迎える菓子メーカーです。「き花」や「RAMS」などの商品はたくさんの人に親しまれ、お土産やギフトでも多くの方にご利用いただいています。壺屋―き花の杜―は、理念でもある「お菓子を通じて幸せを創る」ことを実際に表現するために、カフェ文欒でのくつろぎ、さまざまな季節のお祭り、木工クラフト、地元のお酒、もちろん和洋のお菓子、ケーキ・パン、お花などさまざまなもので表現させていただいております。

村本社長が思う「デザイン」とは何ですか?

デザインとは「思いを伝えるもの」です。企業理念である「甘味求真」はお菓子を通して幸せを創造するという考え方で、それを形にした「き花の杜」はそれ自体がデザインだと考えています。また、皆さんの身近なところでは、例えば高校卒業後どうしたいのか、そのうえで自分はどう生きていくか、という「人生設計」もデザインだと思います。「なりたい自分」という目的から人生を逆算してデザインする。その為にはどのような仕事をするか、これが働き方だと考えます。デザイナーがお菓子のパッケージやロゴを考えることのみがデザインだと思われがちですが、私にとってデザインというものは、もっと大きな目的そのものだと思います。

時々お菓子のパッケージのデザインが変わるのはなぜですか?

商品が認知され浸透しているがマンネリ化してきた、業界に類似品が出た、伝えたい相手に商品がしっかり伝わっていない時などにパッケージだけをリニューアルします。もちろんインパクト重視の時もありますが、例えば、き花の杜のオープン時に作った「3時のパン」という商品は、つい最近リニューアルしましたが、売れ行きが悪くなったわけではありません。パッケージリニューアルは売れなくなってからテコ入れで変更しても思うとおりにならないことが多いです。商品は元々何のために、誰のために、作られたかを現代の感覚で、再表現したのがリニューアルなのです。

村本社長が思う10年先の旭川が「デザイン、素晴らしいね」と言われるためには?

「どうしたい」「こうなりたい」という思いはデザインだと思うのです。皆さんが言った「将来の旭川が明るくあってほしい」と思うことが大事!「今」の延長線上の10年後ではなく、「なりたい将来や未来」から逆算して考える10年後であり、その想いが明確であるほど大きな原動力になります。北海道産食材は道外や海外からも求められていて、この先北海道で道産食材が使えなくなる日が来るのではと危機しています。その時どうするかではなく、逆算でデザインする。10年後、道内の生産者の方々に「壺屋さんで使ってほしい」と信頼される会社にすることが私の使命だと考えています。

 


 

取材と原稿の執筆を終えた旭川北高等学校と旭川農業高等学校の生徒たちが、後日座談会を行いました。お話しする相手は、あさひかわデザインウィーク実行委員会の会長、渡辺直行さん。高校生がデザインや考え方に触れ、何を感じたのか、10年先の旭川が今より素晴らしいデザイン都市になるために大切なことを語り合いました。


 

旭川のデザインを考える最初の一歩として、「好き」「面白い」という気持ちを持つことが大事です。そこでお聞きしますが、高校生の皆さんは旭川の好きなものや場所はありますか?

石塚(北):私は地元が留萌で旭川に来た時は都会の印象が強くて不安だったんですけど、実際住んでみると自然が多くていいなと思いました。
星野(農):私は旭川駅の木のぬくもりを感じるデザインが好きですね。
渡邊(農):旭川市内から見る山がすごくきれいですてきだと思います。

 

渡辺会長は旭川で一押しのものや場所はありますか?

渡辺会長:私も豊かな自然ですね。自然こそがこの地域最大の資産でメリット。我々は家具メーカーとして地元の木を使って家具を作っているわけですが、材料の6割が地元の木です。この割合は他の産地との大きな違いです。

 

渡辺会長から高校生に聞いてみたいことはありますか?

渡辺会長:最初に「これは良いデザイン」「すごいな」と思ったものは何ですか?


石田(農):今から4、5年前、中学生の時に台湾に行ったことがあるのですが、道に文字のオブジェが並んでいて、それに感動したのを覚えています。
川谷(北):父が舞台道具を作っていて一番身近にあったデザインだったので、舞台を支えるデザインもあるのだと感じたのが印象に残っていますね。
向中野(北):人生最初ではなく今日すごいと気付いたものなんですけど、当たり前だと思っていたラベルがついていない水のペットボトルを見てすごいなと思いました。

宮崎(北):私は家具が好きで、以前家のリフォームをするテレビ番組で見た、4人掛けから8人掛けに変形するテーブルセットのようにアイデアのあるデザインに引かれます。
渡辺会長:私が最初に良いデザインだと思ったのは車なんですよね。高校生のころカーデザインという仕事があると知って初めて産業としてデザインを意識しました。いすゞの117クーペは格好良かったですね。

 

高校生の皆さんから渡辺会長に聞いてみたいことはありますか?

川谷(北):今アメリカにいらっしゃるということですが、日本とアメリカのデザインの違いやアメリカにしかないデザインの特徴があれば教えてください。
渡辺会長:アメリカではまちなかや、公共のものを作る時には景観や環境に配慮して作っていて、例えば隣の家が白いなら自分の家の色も合わせようとします。日本も昔はそうだったと思いますが、今は自分が目立とうとする意識が強いような気がしますね。また、人口過密の大都会以外は土地が広いこともありますが、高い建物はなくすっきりしたデザインなのは一つ特徴だと思います。

旭川農業高校の皆さんもリモートで参加いただきました。

 

高校生の皆さんはこの取材を通して、10年後の旭川が「デザイン素晴らしいね」と言われるためにはどんなことが大事だと感じたのか教えてください。

星野(農):私は、若者を中心にデザインを考えていくことがこれから大切になっていくのではないかと、今回の取材を通して感じました。
川谷(北):今ある旭川のデザイン、例えば取材場所だったジャパチーズさんの建物などを通してデザインを知ることが大切だと思いました。流行にとらわれず、未来まで愛され続けるデザインを市民みんなで親しめたら「旭川のデザインは素晴らしいね」とほめてもらえると感じました。
石塚(北):私は今回の取材を通して、デザインは旭川に住む私たちの身の回りにもたくさんあることを知り、旭川市民がそのデザインに目を向けることが一番大切だと思いました。その姿勢が多くの方に伝われば評価につながると感じましたね。
渡邊(農):私も石塚さんと同じようにデザインが身の回りにあると取材を通して知ったので、旭川の皆さんにも本来のデザインというものを伝えていけたらいいなと思いました。
宮崎(北):「デザインとは何か」を市民が知ることが大事だと感じました。「このデザインは、こういうことだよね」といった会話が生まれるほどに理解が深まると、質の高いデザインの需要と供給につながり、良いデザインが次々とできあがるのではないでしょうか。
向中野(北):10年後の旭川は少子高齢化が進み、若年層はどんどん市外に流出していくと予想しています。旭川の良さを発信していく必要があり、「デザインへの意識」を旭川市民で共有していくことが大事だと感じました。
石田(農):谷口農場への取材で小関さんが言っていた「外側のデザインだけではなく内側や中に目を向けることが大切だ」という話に共感しました。旭川に若い人がたくさん残って新しい仕事や企画を考えて地元を盛り上げていくことが大切かなと思っています。
渡辺会長:旭川周辺まで含めてこれほどデザインについて語っている地域は他にないと思いますよ。そう考えると仕掛け人の一人としてうれしく思います。デザインを仕事に生かすには、自分の意識や感性を磨いていかなければなりません。美意識を鍛える、美しいものを見る、格好良いものを作る、といった発想こそデザインの原点、最も大切なことの一つですよ。
 

 

渡辺会長が思う10年先の旭川が「デザイン素晴らしいね」と言われるためにはどんなことが大事だと思いますか?

渡辺会長:デザインは人と自然と社会をつなげる役割を担っていると思います。できるだけ多くの皆さんがデザインに親しんだり理解して生活や仕事に生かしたりして、幸せに生きる道をみんなで考えて行動できるまちが、本当のデザイン都市なのだと思います。産業を活性化させるよりも、自然を生かし生かされながら一歩ずつ進んでいくのが旭川らしいあり方ではないでしょうか。ADWは工場見学やまちなかキャンパス、シンポジウムなどいろいろなイベントがあります。実際に触れて考えて、楽しんだり遊んだりしてもらえたらデザインについて分かると思いますので、ぜひ来てください。

 

あさひかわデザインウィーク実行委員会会長 渡辺直行氏

1951年、札幌市生まれ。東京造形大卒業後、インテリアセンター(カンディハウスの前身)入社。米国の現地法人総支配人、カンディハウス社長、会長を経て令和3年3月より相談役。平成28年北海道産業貢献賞。あさひかわ創造都市推進協議会会長。

座談会当日はアメリカよりリモートで参加いただきました。

 


 

あさひかわデザインウィーク(ADW)は、家具などのものづくりをはじめ、食や金融機関などが参加するデザインの祭典です。今年は6月17日~25日まで開催されます。若い人たちがデザインに触れ、活用しながら社会で活躍してほしいという思いから、ADW初の試みとして高校生が新聞を制作する企画を実施。グラフィックデザイナーなどが所属する旭川クリエイターズクラブ(ACC)が高校生をサポートしました。

[お問い合わせ]あさひかわデザインウィーク実行委員会事務局
(一般社団法人北海道デザインラボ内 担当/江口)
TEL
0166-74-3355
FAX 0166-23-3005
E-mail adw@adwhokkaido.com
WEB ADWhokkaido.com

 

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


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