北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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どうほく談話室


地域おこし協力隊員 安部晋平さん(25)

下川町で映画上映続ける*作品の世界 存分に浸って

 【下川】映画館のない人口約3千人の下川町で、昨年夏から1、2カ月に1度、映画の上映会が開かれている。作品のジャンルや制作国はさまざまで、上映会に合わせてオープンするカフェは町民が気軽に集う場となっている。上映会を企画運営する地域おこし協力隊員の安部晋平さん(25)に活動への思いや今後の目標を聞いた。(聞き手・名寄支局 朝生樹)

――下川で定期上映会を始めてまもなく1年になります。

 「これまで町の歴史的建造物『恵林館』や『石蔵倉庫』などで7回開催し、毎回来てくれる人もいます。正直に『面白くなかった』と言われることもありますが、涙を流すなど感情をさらけ出して見てくれる人もおり、映画の世界に入り込むような没入感を演出できたと感じます」

――どんな作品を取り上げているのですか。

 「これまで紹介した10作品のジャンルはSF、ファンタジー、ドラマ、社会問題とバランス良く扱っています。制作国も日本、フランス、ロシア、米国など多様です。今月の上映会はタイの作品です。作り手が本気で、楽しそうに作っている。そんな意欲を感じる作品を選んでいます。また、5月の上映会では、終演後に映画の世界の雰囲気に浸ってもらおうと、町民でつくるバンドの生演奏をやってみました」

――そもそも、なぜ下川で映画を上映するのですか。

 「小さい頃から映画が好きで、大学生になってから映画館そのものに興味を抱くようになりました。大学を休学して2018年から3年間、ニュージーランド南島にある人口約1万人のワナカ町の映画館で働きました。帰国後、もっと小さなコミュニティーで映画上映を手掛けてみたいと思い、移住サイトで下川町を見つけました。愛知県出身で寒いところに住んでみたかったのも大きいです」

――ニュージーランドの映画館はどのようなところでしたか。

 「日本のように大規模な映画館とミニシアターのようなすみ分けがなく自由です。チケット代もそれほど高くありません。働いた映画館は、80人入れるシアターが三つあり、鑑賞席としてソファや乗用車が置かれており、お酒や料理を楽しみながら映画を楽しみます。ワナカの人にとって映画館は日常。映画が終わり、シアターから出てくるお客一人一人の表情を見るのが好きでした」

――今後の目標は。

 「任期は24年3月まで。あえて長期的な目標は立てず、コツコツと映画を上映していきたい。これまで下川や旭川で開催してきましたが、場所を変えながら今後は名寄でもやってみたいです」

 

*取材後記
安部さんは上映会を告知するポスターに作品の世界観に合わせた手描きのイラストを載せている。独特のタッチで描かれたイラストは作品のことを知らなくても「この作品を見てみたい」という気持ちを駆り立てる。「絵を描くとやる気が出るんです」と話す安部さん。一つ一つの上映会に全力を注ぎ、苦労を惜しまない。そんな映画へのひたむきな思いが多くの町民を引きつけているのだろう。

 

あべ・しんぺい 1997年、愛知県生まれ。県内の大学卒業後、2021年5月に起業を目指して活動する「起業型地域おこし協力隊」として下川に移住。「ボギス、バンスとビーンズシネマ」という屋号で、同8月から下川や旭川で映画の上映会を開いている。

 

(2022年7月18日掲載)

 
 

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


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