北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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北極星

道北各界で活躍する皆さんによるエッセーコーナーです。 2020年3月までの記事はこちら


稲荷桂司(旭川・公務員)*本の家系図

 普通、何か古典を読む場合は、現代日本語訳を読むことが多いだろう。少し頑張って原文で読むにせよ、訳に加え原文や解説が付いている本もあり便利だ。

 さらに本格的に、例えば中国の古典なら版木で刷られた本で読もうとすると、意外な面倒がある。漢字ばかりで読みづらいだけでなく、時にはそこに書かれた文字が本当に正しいかも悩む羽目になる。

 古典は長い時代、人々に読まれ伝えられてきた。その間に写し間違い、版木の彫り間違い、時には善意の書き換えなどで、少しずつ違う内容のものが残っている。だから各時代の資料を読み、誰がどの本を基にそれを出版したかといった情報を調べ、本の家系図のようなものを作る。そうして著者の書いたものに一番近いものを選び、他の本で誤字脱字を直して読む。現代の活字本はここまでを済ませてあるのでありがたい。

 この作業は実際やってみると、ご先祖調べをしてるような楽しさがある。最近、有名な割にそうした作業をしていない古典を読む機会があり、この本の家系図作りにハマってしまった。本物の家系調べと同じで、これだけネットが普及した社会でも、検索すればポンと答えが出るわけではない。これぞ本当の調べ物の醍醐味(だいごみ)よと悦に入るのは、既にスマホの扱いで娘に追い抜かされたオヤジのひがみだろうか。

(2022年6月27日掲載)

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


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