北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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どうほく談話室


熊本から移住、美瑛町立病院の眼科医 谷原秀信さん(61)

*患者とゆっくり話せる環境に*地域の現場は医療の原点

 【美瑛】町立病院で昨年4月から眼科医を務める谷原秀信さん(61)は、前月まで熊本大副学長と同大医学部付属病院長を務めていた。20年来の夢だった美瑛移住を果たし、最初の冬を過ごした谷原さんに、移住後の暮らしや専門の緑内障などについて聞いた。(聞き手・旭川報道部 鳥潟かれん、写真・西野正史)

――なぜ美瑛に移住したのですか。

 「将来は大きな森に小さな家を建て、散歩したりゆっくり本を読んで余生を過ごしたいと考えていて、講演や旅行で全国を訪れ、北海道が理想的だと思いました。美瑛には20年ほど前から通っていて、美しい丘陵の田園風景と豊かな自然、おしゃれなレストランやカフェも多いことから家内も気に入り、決めました」

――生活はどうですか。

 「雪国は初めてで全てが目新しいです。大地も大空もすごく広い。普段は写真を撮ったり、野鳥や花、草がどんな時期にどんな場所に現れるかを地図にしています。初めての冬で、除雪の大変さなど散々脅されましたが、近所の人に教えてもらいつつ準備しました」

――日ごろはどんな仕事を。

 「点眼薬の処方で経過観察中の患者さん、比較的穏やかな病気の患者さんを中心に診察しています。手術前後のフォローや、手術する病院への紹介もします。眼科の診察は週1回。地域貢献と地元になじむためにという気持ちでいます」

――緑内障は中途失明の原因として最も多いそうですね。

 「40歳以上の日本人の20人に1人がかかり、高齢になるほど増えます。眼圧が高いことで視野が障害され、失明につながる病気と思われていますが、日本人には眼圧が高くないのに視野が障害される『正常眼圧緑内障』も多いとされています。緑内障の新しい治療薬の開発にも関わりました。従来の薬が効かなかった人にも効く市販薬です」

――日ごろから気をつけることは。

 「早期発見、早期治療です。正常眼圧緑内障では、頭や目の痛みもないうちに見えづらくなります。視野が欠けても自覚できず、失明寸前になってやっと気付く。一度失った視野は一生そのままです。生活に必要な視力、視野を一日でも長く守るため、人間ドックや検診を受け、『なんとなくかすんでいる』など、おかしいと思ったら眼科に来てください」

――北海道に来て感じたことや、医療の課題は。

 「やはり地域格差が大きい。眼科医がいない、手術設備がないなどの地域では、患者さんは車で1~2時間かけて眼科に行く。一方で、都会の病院を望む学生は多い。少子高齢化や人口集中が進む中で、取り残される地域がどう医療を守っていけばいいか、考え続けなくては。大学病院では失明寸前の人や難易度の高い患者さんを診ていましたが、今は全然違う。高齢の患者さんとゆっくりお話しできる環境で、携われて良かった。地域医療の現場は、医療の原点だと思います」

 

*取材後記

 経歴とは裏腹に、優しい笑顔と穏やかな関西弁が印象的な人だ。取材後、自宅の森や訪れる野鳥の写真を見せてもらいながら、ある経済学者の言説を教えてくれた。持続的な幸福感を得るためには肩書や収入ではなく、健康や愛情など、他人との比較によらない「非地位財」が大事だというものだ。美瑛での生活も「自分の望む人生がどんなものかと考え続けた結果」で、町民や移住者と交流し、刺激を受ける日々だという。いつか第二の人生を始める時まで、覚えておきたいと感じた。

 

たにはら・ひでのぶ

 1960年、大阪府生まれ。京大卒業後、天理よろず相談所病院(奈良県天理市)や米・南カリフォルニア大、マイアミ大研究員を経て、京大客員教授や熊本大教授、同大理事を歴任した。熊本大名誉教授。

 

(2022年3月21日掲載)

 
 

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


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