北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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どうほく談話室


稚内の地域エネルギー会社代表に内定 石塚英資さん(61)

*電気の「地産地消」どう展開*環境配慮前面に市民の共感を

 【稚内】風力や太陽光など再生可能エネルギーを活用して稚内で作られた電気を地元で消費しようと、地域エネルギー会社「北風と太陽エナジー」(仮称)が5月の設立を見込んでいる。電気の「地産地消」という新たな挑戦だ。代表に内定している石塚英資さん(61)に事業内容などを聞いた。(聞き手 稚内支局 高橋広椰)

――会社設立の経緯は。

 「10年ほど前から稚内商工会議所で策定していた『稚内版地域戦略ビジョン』がきっかけです。風が強いなど恵まれた環境が注目され、風力発電所などが相次ぎ建設されました。人口減が続く中、再エネを漁業や酪農などに次ぐ産業の柱に育てようとする機運が高まったのです」

――2018年9月の胆振東部地震で、風力発電所などがありながら、道内は全域停電(ブラックアウト)しました。

 「消費者はどこで、どうやって発電しているのか分かりにくいと思います。電気に色がなく、区別しづらいからです。電気の地産地消を進めることで、市民がその過程を実感しやすくなります」

――「生産者の顔が見える野菜」の電気版ともいえます。

 「稚内市内で発電された電気を市民らに販売する『循環』に向け、『北風と太陽エナジー』はその『歯車』となり、再エネ産業などの裾野を広げていきます。自然の力を生かし、地域の経済振興を図りたいと思います。企業から一般家庭まで幅広く販売します。地域経済の循環や環境への配慮を前面に打ち出し、利用者に省エネを提案していく計画です。その『付加価値』に共感し、市民に利用してもらえるよう取り組みます」

――日照不足から太陽光発電が十分にできない冬場は電気が不足して日本卸電力取引所(JEPX)での取引価格が高騰し、地域エネルギー会社の経営を圧迫することもあります。

 「事業は今秋開始し、当面は大手電力会社の電気を供給する『取り次ぎ販売』の形態を取ります。今のところJEPXから調達する予定はありません。当社に出資を予定する市の公共施設にも電気を供給することで経営を安定化させます」

――小売り販売の開始時期は。

 「国の固定価格買い取り制度(FIT)は電気の全量の買い取りを義務づけられていることから、当初は稚内市内の再エネ電源から電力の調達ができません。(2011年に新エネルギー・産業技術総合開発機構=NEDO=から無償譲渡を受けた)市の稚内メガソーラー発電所がFITの適用期間を終える2026年以降、市内の再エネ電源から調達した電力の小売りを始め、取り次ぎ販売から切り替えていく計画です」

――お堅いイメージの電力会社にしてはユニークな社名です。

 「どちらが強いかを張り合うイソップ寓話(ぐうわ)の『北風と太陽』から取りました。どちらの恩恵も活用し、稚内を『環境先進地』に押し上げたいですね」

 

*取材後記

 スイッチを押せば明かりがつき、テレビが映る。普段の生活で「電気はどこで作られるのか」と思いを巡らせる人は少ない。新会社が市民に「電気の産地・稚内」を感じやすくさせる効果は大きい。

 規模が小さい新会社が価格競争に打って出る可能性は低いだろう。ただ、農作物の地産地消で住民が地元農業に目を向けたように、エネルギーの地域循環が進めば、こんどはエネルギーに関心を示すようになると思う。

 

いしづか・えいじ

 1960年、稚内生まれ。室蘭工大卒。90年に石塚建設興業に入社し、2005年に社長就任。12年からは民間グループ「稚内新エネルギー研究会」会長を務める。セミナーや植樹などを手がけ、市内のエネルギー、環境問題に積極的に取り組んでいる

 

(2022年2月21日掲載)

 

 

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


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