北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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北極星

道北各界で活躍する皆さんによるエッセーコーナーです。 2020年3月までの記事はこちら


村山修(枝幸・ダイニングバー店主)*旅の途中

 10月中旬、自宅近くのバス停の待合所にバイクが止まっていた。「この天気じゃ、雨宿りか」。でも、その日はどんどん気温が下がり、標高の高いところでは雪になるかもしれないという予報になっていた。その通りになったので、早じまいして帰宅すると、まだバイクがあった。そこで泊まるのは危険だろうと、おせっかいなことを思った。

 彼は、10万円で日本一周の旅をしている大学生だった。大学はオンラインでの講義で、こんな機会だからこそと思い立ってのことだった。自宅に招き、サケやホタテやイクラなんかをごちそうすると、「おいしいです」とご飯のおかわりをしてくれる彼に、昨今の事態にめげている僕だけど、気持ちが温かくなった。

 新型コロナウイルス感染拡大防止にと、枝幸町内のキャンプ場などが閉鎖された今年。なんだか気持ちまでふさぎ込んでしまっているけど、季節は巡り、もう冬になる。焼けばグリルのなかでジュッという脂ののったサケやクチグロマスがおいしい。生まれた川へと回帰の途中だけど、しっかり、いただきます。

 彼がおいしいと食べてくれたこの海の恵みは、新しい日常と言われるなかでも、変わらない。当たり前のようだけど、こうして続いていることを、あらためて感じるのは、今、大事なことなのかもしれない。

(2020年11月30日掲載)

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


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