北極星
道北各界で活躍する皆さんによるエッセーコーナーです。 2020年3月までの記事はこちら
塩田志女子(旭川道新エッセー教室受講生)*あみだくじ
待ちに待ったスーパーのオープン日を迎えた。「初日は混雑するから行ったらダメよ」と娘からきつく言われていたが、禁止令が出されると反抗したくなる。
午後に出かけると、店内は意外と閑散としていた。一通り店の中を回り、ささやかな買い物を済ませてレジを出ると、「壺(つぼ)もなか」が目に入った。「あら!」。思わずつぶやき、吸い寄せられるように店の前に立った。最中を見ていると、遠い日の思い出が美しく切なく漂ってきた。
「そろそろあみだくじ始めるか」。課長が呼びかける。月給日恒例の課長からのプレゼントなのだ。
7人の小さな課だった。引き当てたくじに歓声を上げる。課長から渡されたお金を握りしめ、ケイコさんと2人、近くにある菓子工場へ向かった。そこが壺屋であった。
裏口から入ると、大きな箱に最中がたくさん入っている。つぶれてあんが顔を出しているもの、軟らかい皮が破れたものなどちゃんとした商品は一つもない。だが半値なのだ。箱をのぞき、少しでも形の良いものを選んだのを覚えている。
職場に戻り、2個ずつ懐紙に包んで、それぞれの机に配る。「少し渋い茶を頼むよ」と係長の声がした。
昔々の懐かしい思い出。昭和24年(1949年)4月。私の初月給日の出来事である。
(2025年03月17日掲載)
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