北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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北極星

道北各界で活躍する皆さんによるエッセーコーナーです。 2020年3月までの記事はこちら


稲荷桂司(旭川・公務員)*転機

 最近、改めて、石で印を彫る篆刻(てんこく)に取り組んでいる。もともと高校の書道の授業で自分の名の印を彫って以来、興味を持ち、書道部に入ってからは学校祭の出し物で実演するまでに入れ込んだ。卒業の際には部の後輩全員に印を贈るなど、かなりの数を彫ったものだ。ただ、顧問の先生は専門外だからと具体的な指導はいただけず、アドバイス程度だったため、当時は正直、ノリと勢いで彫っていた。

 のびのびと彫らせてくれた先生には感謝だったが、卒業後、本を読んで知識が増えてくると、きちんとした印を彫りたいという気持ちが高まるあまり、気軽に彫ることができず、実作から離れていってしまった。その後も折に触れ資料や印材を購入こそしていたが実際にはなかなか彫れず、十年ほど前からは年に一度の年賀状に押す干支の印を年末にあわてて彫るのがやっと、というていたらくだった。

 転機は今年、娘たちがそろって受験生になったことだった。学生時代、母の友人に彫った印でツキや運が上がったと言われ、それから何人かに彫ってあげたことを思い出し、娘たちの運気が少しでも上がればと一念発起したのだ。

 思えば高校の時といい、私は自分自身よりも他人のために彫ったことの方が多かったかもしれない。この本格始動にも、自分の娘とはいえ、人にあげるためというのが、自分のサガのようで複雑な思いだ。

(2025年08月18日掲載)

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


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