北極星
道北各界で活躍する皆さんによるエッセーコーナーです。 2020年3月までの記事はこちら
三国真澄(旭川道新エッセー教室受講生)*蕗の薹
まだ雪の残っている庭の片隅に、背伸びをするように、萌葱(もえぎ)色の花茎を2、3本見つけた。周りの雪を掘り起こしてみると、きゅっと締まった紫紅色の小さな芽。蕗(ふき)の薹(とう)である。長い厳冬期の雪の下で枯れもせず。地中に根を張り、毎年同じ所に同じ姿勢で、いとしい人にあいたいように…。
「ほろにがき思いでありき蕗の薹」
友人の句である。
ウオーキングを毎朝の日課としていた夫は、この季節になると何時もより早く家を出た。田畑の道端などで摘み採り、みそ汁に入れ、1人で楽しんでいたであろう。早春の風のような香りは、早起きの苦手な私の寝室まで満ちてきた。
他にも蕗みそにしたり、花になる前の形のままを天ぷらにする。そのほろ苦い風味は、野趣に富む早春の味覚そのものである。
庭の小さな蕗の薹は、いつの間にか、みどり児の手のような葉を広げていた。これをつくだ煮にするのがおいしいのだけれど、葉をつけた茎を2、3本、ガラスのコップに挿しておくのも楽しい。細い切り口から力強く水を吸い上げ、小さい泡がぷくぷくと立ち上る姿に、春の息吹を感じることができる。
蕗の薹を採ったり、ヨモギの若芽を摘んだり。野遊びの楽しみは今年から独りになってしまった。
(2024年05月27日掲載)
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