北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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どうほく談話室


そば打ち最高位六段 坂本勝之さん(80)

3千人指導 製粉手がけ6次産業化へ*夢は「そばカフェ」 幌加内満喫

 【幌加内】ソバの作付面積が市町村別で全国一の「そばの里」幌加内町は、そば道段位の有段者たちが居並ぶ、そば打ちのまちでもある。その頂点に立つ1人で最高の「六段位」を持つ坂本勝之さん(80)は、農家兼製粉業者として栽培、加工、販売の「6次産業化」も進める。ソバを知り尽くす匠(たくみ)に、その思いを聞いた。(聞き手・宗万育美)
 

――「蕎士(きょうし)」とも呼ばれる六段位に上り詰めました。

 「私はこれまで地元の子どもたちや観光客など延べ3千人近くを指導し、昨年4月に認定されました。そば打ちの技術のほか、ソバの品種や歴史など幅広い知識と、普及活動の実績が求められる新しい段位です」

――そば打ちが必修科目の幌加内高でも、外部指導員として教えていますね。

 「そば粉と水を混ぜ合わせる『水回し』、生地の『練り』、麺棒で広げる『のし』など、多くの工程があります。複数人で指導に当たっているので、指示が異ならないよう教え方を統一しています。初段獲得が卒業条件になっているため、決まった手順を教えるのはもちろんですが、相手に寄り添い、やりやすい方法を助言するのも役目です」

――教える上で大切にしていることは何ですか。

 「生徒たちは素直です。『あれ駄目、これ駄目』と言うと、実力がないと思い込んでしまいます。麺の仕上がりが悪くても、水回しで『の』の字を書くように手を大きく動かせていたら『動きが良くなったよ』、『練り』で体重をかけて練り込めていたら『船をこぐようにできていますね』と褒め言葉をかけ、意欲を引き出すようにしています。続けていけば上達し、面白くなっていきますから」

――そば打ちの魅力とは。

 「無心になれ、うまくできると満足感があります。町の施設や私設の道場でそば打ちを教えていますが、士別から警察署長が2人続けて習いに来ています。道場の外では緊張しますが、そばを打つときは同じ仲間。世代や立場を超えて人と交流できるのが魅力です」

――そばの製粉販売会社も経営しています。

 「ひき方を変えたら、さらにおいしくなるのではと考え、20年以上前に製粉所を始めました。そば打ち仲間から『風味がいい』と評判になり、2017年に法人化しました。ひいて3日以内に発送し、鮮度の良さで差異化を図っています」

――今後の目標は。

 「そば茶やそば汁粉などを出す『そばカフェ』を町内に開くのが夢です。玄ソバ(ソバの実)を雪の中で熟成させた『ねむり雪そば』や、殻付きの玄ソバを芽が出かけるまで水に浸した『発芽そば』など、他では食べられないそばも扱い、幌加内を満喫してもらえる店にしたいと思います」
 

*取材後記

 入植農家の祖父が栽培を始めたソバは、生きるための食糧だったという。作付面積が増えて農協へ出荷し始めてからは、生計を立てる手段となり、「今はそば打ちが趣味であり、仲間や地域づくりを果たす文化」。役割を変えながら常に生活と共にあったソバを、坂本さんは「大事なパートナー」と称した。そばと共に目指す、カフェ開業という新たな夢の実現が待ち遠しい。
 
 さかもと・かつゆき 1942年、幌加内町生まれ。家業の農業の傍ら野幌機農高(現・とわの森三愛高)通信制卒。稲作にも携わったが、現在は20ヘクタールでソバのみを栽培。一般社団法人全麺協(東京)のそば道段位認定会では、全国審査員も務める。製粉販売会社「そばの坂本」社長。
 
(2023年1月23日掲載)
 

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


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