北海道新聞 旭川支社 + ななかまど

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旭山動物園わくわく日記

全国的な人気を呼ぶ旭川市旭山動物園の話題やイベント、裏話などを紹介します。 旭山動物園ガイドとしてもお楽しみいただけます。 2020年3月までの記事はこちら


鳴いたら怖い?キョン*臆病でかわいい「天使」


 「フーア、フア、フア」。てながざる館の鉄塔の上からテナガザルの甲高い声が響き、見上げる来園者たち。その下の地面をよく見ると、シカの仲間のキョン2頭がじっとしていた。臆病な性格で警戒心が強く、多くの時間を動かずに過ごす。

 現在いるのは母(年齢不明)と娘(10歳)。いずれも体長50センチほどで、体高は人間の膝下くらい。シカというよりは中型犬のように見える。4本の脚も枝のように細い。目のすぐ下には、臭いのある分泌液が出る臭腺がある。液体を木にこすりつけて縄張りを示すためで、もう1対の目のように見えるため「ヨツメジカ」とも呼ばれる。しかし、この2頭は臭腺が小さく、四つ目には見えにくい。

 今春から飼育担当を務める中田真一副園長(55)は、「こんなにかわいいとは」とにっこり。舌は長いが口は小さく、好物のニンジンは1センチ四方ほどのサイコロ型にして与える。「ニンジンをあげると、手をぺろぺろなめてくれるのがたまらん」。ベテラン飼育員をもとりこにする魅力があるようだ。

 生息地は中国南東部や台湾。その肉は牛肉の赤身に似た味わいといわれ、1頭から取れる肉の量が少ないためか中国や台湾では高級食材とされる。

 観光用にと輸入した国内でも房総半島や伊豆大島で繁殖し、2005年に特定外来生物に指定された。観光施設で飼育されていた個体が逃げ出したものとみられる。道内のエゾシカのように個体数が増え、農作物の食害も出ている。害獣扱いだが、すばしっこくて捕獲が難しい。

 房総半島で繁殖するキョンは「ギャアー」という不気味な鳴き声を上げ、市民が迷惑しているという報道もある。中田さんは「悪魔みたいな声と言われるが、ここでは鳴き声そのものを聞いたことがない。むしろ天使ですね」と優しく見守る。

 動く姿を見たいなら、餌のキャベツを探して動き回る朝が狙い目だ。「地味だがかわいいので、てながざる館を訪れた際には下にいるキョンたちも見てほしい」。寒さに弱く、冬季は展示されない。(鳥潟かれん)
 
【写真説明】親子のキョン。どちらも雌なので、角はなく、頭がつるんとしている(諸橋弘平撮影)
(2022年10月3日掲載)
 

 

※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。


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