どうほく談話室
ビックボイス社長 佐々木治郎さん(53)
*旭川でデジタル推進するには*IT企業誘致 Uターン促進を
旭川市出身の佐々木治郎社長が2012年に創業したベンチャーIT企業のビックボイス(東京都町田市)。道内に小規模拠点をつくる独自戦略で、昨年は旭川に5カ所目を設けた。システム開発を専門とする同社の狙いと、旭川のデジタル推進の可能性を聞いた。(聞き手・旭川報道部 星野真、写真・宮永春希)
――昨年、旭川に拠点を設けたのはなぜですか。
「進出というより、Uターンです。沖縄や北陸なども検討しましたが、前例のない新型コロナウイルス禍の不景気で、いま支援するなら古里しかないと思いました。環境が良く、景色は他都市よりずばぬけて良い。富良野、美瑛も近いし、仕事に集中できます。今は企業のニーズを探しています。春までに道内勤務の2人が旭川に着任予定。Uターンや未経験者を採用し、まず10人まで増やします」
――先行した函館や室蘭での実績はどうですか。
「函館はU・Iターン者の定着。進出時の求人で応募が殺到し、IT業者が何十社も進出している場所なのに『なぜ応募数も入社数も多いのか』と聞かれます。『賃金を東京と同水準にする』と宣言し、他社から引き抜きせず東京や関西、札幌から人を戻せました」
「室蘭ではDX(デジタルトランスフォーメーション)です。デジタル技術で業務を変革する準備段階から寄り添い、ものづくり2社の製造ライン効率化に、IoT(モノのインターネット)の導入で協力しました。市と室蘭工業大、室蘭テクノセンターと『室蘭のIoT革命』と銘打ち、今のところ成功しています」
――IT企業の視点で、旭川の現状や課題は。
「都市の規模からするとIT企業が少な過ぎます。『進出してほしい』という感じがうまく出ていないのでしょうか。パソコンとインターネットがあればどこでも働けるので、IT企業が増えれば若者は戻ってきます。旭川は、応募が多かった函館のように人が集まらない。未経験でもテレワークでもできると気付いていないかもしれません」
――旭川はDXでどう変わるのでしょう。
「旭川は遅れている印象。すばらしい店はありますが、独自のホームページで思いを発信しているケースが少ない。函館はそこが上手な気がします。今はいかに発信し、自由に移動可能となるコロナ後に備えるかが問われる時期ですが、進んでいない。対応できるIT企業が少ないからです。デジタル推進により、旭山動物園があり、世界中にいる旭川のファンを引き寄せられるようになります。ECサイト(ネットを使ったモノやサービスの販売サイト)や、キャッシュレスもDXの一つ。いち早く進めば札幌に次ぐ力を発揮できます」
*取材後記
社長を務めるビックボイスの旭川市の拠点は、旭川産業創造プラザにある約20平方メートルの部屋だ。しゃれた机といす、ノートパソコン、照明が目に付く程度。穏やかな笑顔からは、胸に秘めた「食うか食われるか」の覚悟は見えない。だが、少し照れるように「私、正義感が強いんです」。社員を一番大事にし、手柄の横取りは許さず、公正に評価するという。ふとした一言に創業者の志を感じた。
ささき・じろう
1968年、旭川市生まれで少年時代まで過ごす。東京で複数のIT企業に勤務後、2012年にビックボイスを設立。売り上げは1年目の3千万円から21年9月期は3億円に。北海道産業集積アドバイザー、函館ものづくり産業アンバサダー。
(2022年1月17日掲載)
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