まちぶら!道北散歩
旭川や近郊エリアを気ままに訪ね、 地域の魅力を再発見していく『まちぶら!道北散歩』。 歴史や文化、人など、地域に根付いた宝物を紹介します!
第10回 上川農業試験場
道産ブランドの米作りは
緻密で根気のいる研究から
みなさん、こんにちは。今回は比布町の「上川農業試験場」に来ています。こちらでは、1年を通して、おいしい米作りに向けた研究・開発を行っており、これまで「きらら397」、「ほしのゆめ」、「ゆめぴりか」などの品種を生み出してきました。今の季節は、どんな作業が行われているのでしょう。
上川農業試験場で手作業で行われている田植えの様子
上川農業試験場には、米の新品種開発を担う「水稲グループ」、栽培法や病害虫などを研究する「生産環境グループ」、畑作物や園芸作物等に関わる「地域技術グループ」があり、それぞれ連携しながら開発を進めています。今回、取材したのは、水稲グループが手掛けている水稲品種の改良(育種)についてです。
レンガ造りの試験場で、研究部長の浅山聡(あさやま・さとし)さんが出迎えてくれました。ガラスケースに展示された優良品種の稲の標本。「きらら397」以外に「赤毛」や「イシカリ」などがある
まず気になったのは、玄関ホールのガラスケースに並んでいる数々の標本。
「北海道で優良品種として認められた稲を展示しています。かつては収量の多さを重視していましたが、味があまり良くなかったことから1970年代の減反政策では、かなり広い生産調整面積を割り当てられました。
これを機においしい米を追求するようになったんです」と浅山さんが説明してくれました。1988年に、道産品種で初めて全国ブランドとなった「きらら397」の稲もありました。ちなみに、「397」は、試験場においての通算の試験番号とのことです。
最短でも10年程度かかるという品種改良の流れについて、パネルを使って説明していただきます。
1年目は交配させて種を取り、2年目は北斗市にある「道南農業試験場」で種を増量。
3年目から上川試験場で優れた株を選び出す作業を繰り返し、株数を絞っていきます。
7年目からは他の試験場や農家などで一般的な栽培方法で育ててみて、既存の品種との比較を行います。
「並行して寒さへの耐性や病気への強さ、食味なども調べます。最終的に10万株の中から1株残るかどうかですから、毎年、新品種ができるわけではありません」と浅山さん。
新品種とするか否かは、米のタンパクやでんぷん(アミロース)の含有率のほか、炊いたときの色・ツヤ・香り、味わった際の甘味や粘りなどから判定しているそうです。新しいお米が誕生するまでは、かなりの手間と時間がかかるのですね。
また、試験場では、種を直接、水田に播いて育てる直播米の開発も続けています。事前に苗を育成する手間が省けるため、近年、省力化を求める農家からのニーズが高まっているそうです。今年、新品種の直播米「えみまる」の作付けが本格的に始まりました。秋に出荷されたら、ぜひ味わってみたいです。
田植えの終わった水田と稲の種類を示す木札。「上育」は上川農業試験場で育成されたことを示している。
爽やかに晴れ渡った空の下、試験場の敷地内に作られた水田で田植えが行われていました。主幹研究員の宗形信也(むねかた・しんや)さんにお話を伺います。「ここで、開発の最終段階として米を育てます。種類が多く、面積が限られているので、機械が使えず、田植えも稲刈りもすべて手作業です」と宗形さん。作業は、地域のパートスタッフの協力も得ているそうです。
水田から少し離れた場所に、地面がひび割れた圃場がありました。見慣れない光景ですが、ここが直播米『えみまる』の圃場です。宗形さんによると、芽が出たら水を入れ、あとは移植と同じ方法で育てるそうです。
今回の取材で、北海道の米作りを支える研究がいかに緻密で根気のいるものであるかがよく分かりました。
私事ですが、転勤により、2年続けてきた私のリポートは今回が最後です。これまで取材させていただいた方々、そして読者の皆様、ありがとうございました。
取材協力
地方独立行政法人 北海道立総合研究機構 農業研究本部
上川農業試験場
住所/上川郡比布町南1線5号
電話/0166-85-2200
https://www.hro.or.jp/list/agricultural/research/kamikawa/index.html
「まちぶら!道北散歩」が旭川ケーブルテレビ・ポテトの地デジ11chで6月7日(金)午後9時15分から放送されます。再放送は6月8日〜6月14日です。日によって放送時間・回数が異なりますので、詳しくは番組表をご覧ください。
※掲載情報は、取材当時のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。